女子禁制! 秘密の男子トーク

「今日こそ答えてもらいますよ」

 複数の部下に詰め寄られてサボは思わずたじろいだ。頬を赤らめてねっとりとした視線を向けられる。男にそんな視線を向けられてもまったく興奮しないので、手で追い払う仕草をしたが彼らはぴたりとも動かない。酒に酔っているのは明白だった。
 帰還中、物資調達のために立ち寄った島で珍しく酒場を利用していたときである。騒ぐのが好きな連中なので料理が運ばれてくる前から盛り上がっていたが、酒も料理も出てくるとたちまちその場はどこの団体よりも騒がしくなった。任務成功を祝してなんて建前のようなもので、ただ飲んでバカ騒ぎしたいだけなのだが。
 左右を固められてサボは身動きがとれなかった。席を立とうとすると、たちまち彼らが逃がさないとばかりに腕を掴んでくる。
 とはいえ、サボもまた珍しく酔っていて気分が高揚しているのは確かだった。ひと仕事終えたあとの酒は格別とは誰が言ったのだろうか、特別美味く感じてペースが早かった。ふう、と息を吐き出して大人しく彼らの言うことに従うことにしたサボは、仕方なしに「何が聞きてェんだ」と返す。

「そりゃもちろん夜の話ですよ。もうフレイヤさんとは結構回数重ねてるでしょ、おれ総長のそういう話すげー気になってます」
「体力お化けの総長。ズバリ一晩で最高何回ヤッたんですか」
「おれ好きな体位知りたいでーす」
「総長。この前見つけたお洒落なホテル紹介します。女性が好きそうな内装だったのできっとフレイヤさんも喜びます」

 矢継ぎ早に聞かれて身を引いたものの、なるほどこれは男同士にしかできない話だったし、サボもフレイヤやコアラの前じゃ当たり前だが絶対話題にしない。明け透けな質問に苦笑する。
 だが――お洒落なホテルってのは気になるな。つまりそういうところなんだろ?

「総長は後ろから責めるの好きそうですけど、実際はどうなんですか」堂々とストレートな聞き方をされて躊躇ったがいっとき考えてから、
「まあ嫌いじゃねェけど……顔が見えるほうが興奮する」
「へえ。意外のような気もしますが、まあ安心感ありますよねえ」
「あとは一度あいつに跨ってもらったこともあったな。体力的にまだキツかったけど」
「えっフレイヤさんがっ!? それはまた――」
「想像するな、今すぐ消せ」

 部下の額を小突く。自分で言っといてなんだが、それとこれとは話が別だ。理不尽だの横暴だのと文句を言う部下達を「知るか」の一言で言いくるめてふんっと鼻を鳴らす。

「じゃあ最高回数は? 一晩でシた回数」
「ンなもんいちいち覚えてるわけねェだろ」
「覚えてないってまさかそんな何度もヤってるってことっすか!」

 興奮して身を乗り出してくる彼らの勢いは止まらなかった。そんなこと聞いてどうするんだと思わなくもないが、酒に酔っているせいかサボも気分がいいのでつい答えてしまう。ただし、一晩の回数なんていちいち数えていない。毎日一緒に寝ているわけではないし、任務明けの日は――まあ多少無理をさせることもあるが、それでも律儀に数えるなんてことはなかった。あえて言うなら、平均二回だろうか。

「人を化け物みたいに言うな。数えてないって意味だ。しいて言えば、平均二回」
「事実体力お化けでしょう、遅くてもフレイヤさんに会いに行ってるくせに。けど、二回は意外だな」
「あいつの体調もあるんだ。加減してるに決まってんだろ」
「ああなるほど。でもそうですよね、フレイヤさんは小柄だし体力も総長の半分以下だろうから大変だろうな」

 言いたい放題だ。酒のせいも多分にあるだろうが、目の前にいるのが上司であることをほぼ忘れている。とはいえ、サボにとって上司と部下であることは任務が関わらなければあまり意識してもらわなくても構わない。もともと上下関係という堅苦しいものが好きではなかった。
 すでに日付をまたいでいるというのに、彼らの陽気さは衰えることを知らない。いつの間にか、酒場の客も自分達だけになっていた。任務を終えて肩の荷が下りたこともあるだろう、少しくらいこういう時間があってもいいと思えた。空になったグラスが寂しくて継ぎ足していると、横から別の部下がどっしり座って話しかけてくる。

「そういや総長。意外と目撃されてるってこと知らないでしょ、気をつけてくださいよ〜?」

 ニヤニヤとだらしない表情を作ってこちらをからかうような目を向けてきたのは、もう五年以上共に闘ってきた仲間の兵士だった。部下でありながらサボより年齢は上。プライベートな話もするにはするが、いつも一歩引いたところにいる奴で、けれどそれがちょうどいい距離感でもあった。それが、今日はどこか饒舌だった。目撃されていると聞いて、なんの話だと問う。

「書架の影に隠れてイチャついてるって何か月か前に噂になってましたよ」
「あー……そんなこともあったな」
「若い奴らには刺激が強いんじゃねェですか」
「別に……まあ気をつける」

 若いって言ったってサボより少し下くらいだろうが。
 図書館のことはサボも覚えている。あのときは、フレイヤの首元が露出しすぎてその白い肌に吸い寄せられるように触れたい衝動に駆られた。確かにちょっと行き過ぎたと思わなくもないが、彼女がそこにいるだけで邪な感情も溢れてくるから困る。

フレイヤさんがかわいいのはわかりますけど、どこに誰がいるかわからないんですから自重してください」
「だから隠れてるじゃねェか」
「隠れていればいいとか思ってるんなら大間違いですよ。言ったでしょ、どこに誰がいるかわからないって」
「あ! 倉庫で作業してたフレイヤさんにちょっかい出してたって、おれの同僚が言ってたような……」
「ほら総長。見られてるじゃないですかっ」

 少し落ち着いたと思ったらまた詰め寄られて、呆れた目を向けられた。何人かは机に突っ伏して潰れているが、元気が有り余ってる奴らもまだ多い。一体いつまでこの尋問みたいなことが続くのか、だんだん答えるのが面倒になってきてサボは適当に答える。

「わかったって。気をつけりゃいいんだろ」

 彼らを追い払うように手で払いのける仕草をしてからグラスの中身を一気に呷る。フレイヤの話をしたせいか、本部にいるであろう彼女のことがふいに思い出される。ちらりと時計を見やってため息を吐く。この時間ではもう寝ているだろうから声を聞くのは難しい。しかしサボには秘密兵器がある。
 立ち上がって、出入り口のほうへ向かってゆっくり歩き出す。

「お前ら朝までには戻れよ」
「え、もう戻るんですか」
「疲れたからおれは船に戻って寝る」
「……嘘。フレイヤさんのこと思い出して寂しくなったんでしょう? 知ってますよ。よくフレイヤさんが許したなって思いましたけど」

 部下からジト目を向けられて答えに窮したサボは、少しの間逡巡してから結局問いかけに答えず「羽目を外すなよ」と誤魔化すように返して外へ出た。船に戻るまでに酔いが醒めるかと思ったが、どうにも生温い風が吹いていて無理そうだ。夜空をぼんやり見ながら海岸までの道のりを歩く。
 彼は「よくフレイヤが許した」と言ったが、この件は彼女が知らないことだ。そもそも部下にも言ってないというのに、彼はどこで知ったのだろう。今回の道中では、まだ一度も使ってないというのに。不思議に思いつつ、けれど頭の中を満たす彼女の存在がサボの思考を奪うので、足は自然と速くなっていくのだった。

2023/04/22
10周年リクエスト10 男子だけの秘密トーク