この世の真理を教えてあげる
※『たしかに恋をしていた』の番外編です
仕事を終えて自室に戻ると、なぜか水着姿のフレイヤが出迎えてくれた。恥ずかしそうに目を伏せながら、着ていたパーカーを脱いで「似合うかな」なんて聞いてくるものだからますます目を丸くさせる。羞恥心を抱いている割にやっていることはかなり大胆で、いつもの彼女の行動から考えるとあり得ないに近い。どうしてこうなった、とサボは首をかしげながら、そういえば今日は買い物に出かけていたことを思いだす。物資調達のついでに私服も何着か購入してきたようだが、まさか水着まで新調していたとは思ってもみなかった。たしかに、コアラから今度の休暇でリゾート地の夏島に行く提案をされているが……。
パーカーを脱いで隠れていたフレイヤの白い肌が晒される。細い肩に綺麗なカーブを描く鎖骨、視線を下げると見事な谷間が惜しげもなく主張してきて、どうしたってそこに視線は集中してしまう。そのままくびれをたどって、ビキニの紐に目がひきつけられる。両側の腰から垂れるリボンがなんとも言えない。
はたして彼女はこれを自分で選んだのだろうか。今日の物資調達にはコアラもミリも同行していない。じゃあフレイヤは誰と行ったんだ? サボの頭の中は忙しなくそんなことを考えていた。
「……悪いフレイヤ。疲れてるから先にシャワー浴びてくる」
散々言葉を選んだ結果、素っ気ない返しをするだけにとどまり、サボはフレイヤの顔も見ずに浴室のほうへ向かった。そのときの彼女がどんな顔をしているかなんて、このときは気にも留めなかった。
サボのシャワーは基本早い。風呂ならまだしも、シャワーは十分程度で済ませられる。その間に頭もすっかり冷静になり、さっきの態度は感じ悪かったよなと反省する。先に寝てるかもしれないと、もしそうなら明日謝ろうと考えて部屋に戻ったとき、しかしフレイヤはさっきと同じ場所で立ち尽くしていた。ぎょっとして「うわっ」思わず声が漏れ、彼女の顔を見てさらに焦る。
え、泣いてる……? この十分間で何があった? サボの胸中は焦燥感でいっぱいになる。もしかしてさっきの自分の言葉が彼女を傷つけたのかと不安がよぎる。
「フレイヤ……? どうした」自分の声が少し震える。
「……こういうの、私には似合わないかな。身長も周りの女性に比べたら低いから子どもっぽく見える?」
「……」
目尻に涙を溜めてそんなことを言うフレイヤを見て、不安が確信に変わり愕然とした。身勝手な理由で彼女を悲しませて何をしてるんだろう。こんなことなら最初から正直に言うべきだった。たとえみっともなくたって、彼女にこんな顔をさせるよりマシだというのに。
「ごめんフレイヤ。そんな顔させたくて言ったわけじゃねェんだ。あれは……なんというか、つまり……」
言葉に詰まって口を閉ざす。自分の中で"それ"だと認めるのが癪で、けどそれ以上の言葉が見つからない。本音を言えばフレイヤに幻滅されるかもしれないが、彼女に誤解されたままでいるほうがサボにとって何よりつらい。
着替えてくると自分の横を通り過ぎようとした彼女の腕を掴んで抱きしめる。そのとき触れた肩や腕が冷えていることに気づいて余計にサボの心は苦しくなる。こんなふうに肌を晒してきっとものすごく勇気がいることだっただろうに、それでも彼女は自分に見せるために頑張ったのだとどうしてそんな簡単なことが想像できなかったのか。ぎりっと歯噛みする。
「可愛いよ、すげェ似合ってる。けど……」
「……?」驚きつつ、こちらの言葉を待つようにフレイヤの瞳がじっと見つめてくる。こうなったら正直に答えるしかない。
「……この水着は誰が選んだ? 普段こういうの買わねェよな……。だとしたらこれを最初に見た奴がいるんだろ? それがおれじゃないってェのが悔しい」
「サボ……」
そう、これは嫉妬だ。この水着を一番に見られなかったことに対して、そして自分より先に見た奴がいることに対して。コアラでもなく、ミリでもない。フレイヤと一緒に買い物に行った奴は、恋人の自分を差し置いて彼女のこの姿を見たことになる。
似合う似合わないというだけならもちろん似合うに決まっているし、彼女が着ればほとんどの服は似合うと思っている。だが、話はそう単純なことではない。
抱きしめている体を少し離して、改めて見てみるとわかる。この水着はあまりにも肌を露出しすぎだ(いや、水着とは本来そういうものなのだが)。
「谷間が開きすぎてる。これじゃあちょっとした拍子に胸が見えちまうだろ」と、人差し指を谷間に突っ込む。カップにあたる部分もどうしてこんなに際どい作りなんだ。見えそうで見えないという心理を逆手にとって想像を掻き立てられる。この姿を自分以外の男が見ていいはずがない。
「あっ……」
「それから――」いったん言葉を区切ってフレイヤの体を反転させる。無防備な背中が眼前に広がり、解いてくれと言わんばかりの大きなリボンが垂れ下がっている。サボは器用に片手でしゅるりとほどいて、「背中が見えすぎだ。この綺麗なラインも白い肌も、おれだけが知っていればいい」露わになった美しい背中の中心を指先でなぞる。ぴくんと震えたフレイヤが前のめりになって胸を押しつけてきた。
彼女には身をもって知ってもらう必要がある。誰が、一番彼女自身を可愛くできるのか。倒れ込んできた彼女の腰から下腹部あたりをゆっくり撫でる。
「ぁ、さぼ、待っ……」
「フレイヤ」
「ンっ」
「いいか? この世でお前を一番可愛くできるのはおれだ。覚えとけ」
こくんと顔を真っ赤にしながら頷くフレイヤを見て満足したサボは、「じゃあこのままベッドに直行だ。よかったよ、この水着を着るのが明日じゃなくて」と彼女を抱え上げてベッドに向かう。どういう意味だろうと首をかしげる彼女にクスッと笑みをこぼしてから「今から汚すかもしれねェから」耳打ちすれば、ますます彼女の顔が赤くなって体を硬直させたので、その可愛さにサボは思わずこめかみにキスを落とした。