クリスマスマーケット

 クリスマスマーケットに来ていたフレイヤは思いのほかはしゃぎすぎていたらしい。気づけば、先ほどまで隣を歩いていたはずのサボが少し離れた後方にいた。いったん足を止めて彼が追いつくのを待つ間、落ち着かない様子で周囲を見渡す。
 冬島のクリスマスはほかの島に比べて一層雰囲気が出る。フレイヤたちが住むセント・ヴィーナス島では絶対に味わえない光景だ。巨大なツリーを筆頭に、イルミネーションが煌びやかで、夕方以降は一時間おきに光の演出もあって楽しい。もちろん、フードとクリスマスグッズも欠かせない。キャンドルやスノードームにオーナメント。ホットココアやミルクティー、ホットワイン。小さなジンジャーブレッドマンが添えられたクリームたっぷりのホットチョコレートもある。
 近くの冬島へクリスマスマーケットを見に行こうと言ってくれたのは意外にもサボからだった。彼は何かとフレイヤの好きなものを見つけるとすぐ教えてくれるし、出かけようと誘ってくれる。そんな小さなことがすごく嬉しい。
 数秒で追いついた彼は夢中になって周囲が見えていなかったフレイヤに苦言を呈す。
「フレイヤ、あまり急ぐな。この人だかりではぐれたらどうする」
「うん。ごめんね」
 小さい頃はクリスマスなどの家族で過ごすイベント経験がなかったせいか、大人になってからのほうがこうした催事に敏感で年甲斐もなく興奮してしまう。子どもっぽかったかなと反省しつつ、サボの反応をそっとうかがう。
「ほら見ろ、隙間ができてる。これじゃ冷えるぞ、じっとしてろ」
「あっ……」
 走ったりあちこち動き回ったりしたせいでマフラーが緩んでいたらしい。サボが呆れつつ、躊躇いなく巻きなおしてくれる。距離が一気に縮まってフレイヤはどきりとした。彼がしているマフラーは以前フレイヤが編んだものだが、自分がしているのは市販のもの。お揃いで編んでもよかったな、なんて。
 ほかのことを考えている間にマフラーをしっかり巻いてくれた彼がまぶしい笑顔をこちらに向けて一言。
「よし、これでいいな。行くか」

2025.12.01 たし恋より