船番
偵察を終えてバルティゴに帰還する途中。"偉大なる航路"の夜は珍しく穏やかだった。小さく聞こえる波の音と澄んだ空に瞬く星々が美しく、落ち着かない心も自然と凪いでいくのがわかる。
今日はサボが見張り当番の日だった。船室から毛布と温かいコーヒーを持ち甲板に出る。船番は基本的に一人で交代制なので、見張り台にはアリーシャがいるはずだが、予定の時間を過ぎても降りてこないのが気になった。交代する人間が来るまではいなくてはならないし、彼女に限って先に帰ったということはないだろう。気になりつつ、見張り台へ昇っていく。
鼻から吸い込んだ空気が冷たさを伴って胸に届く。冬の気候だからだろうか。寒いが、空気はやけに透き通った清らかさがある。そういえばバルティゴで彼女と見た星空も、こんなふうに澄んだ空だった気がする。
「アリーシャさん、なにして――って、寝てんのか……」
ようやく登り終えたあと、予想通り彼女はまだいたが、膝を抱えながら寝息を立てていた。これでは見張りの意味がない――とはいえ、サボも予定の時間より若干遅刻したので文句はのみ込むことにする。大体、冬の夜は冷えるというのに薄着にコート一枚では風邪をひくだろう。
サボは持ってきた毛布をアリーシャの体にかけてから、自分もそこに入って一緒にくるまる。そのとき、こちらの髪が彼女の頬に触れたのか「んっ」と吐息に近いかすれた声が漏れ出て、サボは肩を震わせた。
一瞬起きたのかと思ってアリーシャの顔を確認するも、くすぐったく感じただけらしい。ほっとして、彼女の隣に腰を下ろす。
「……こういう顔をするのか」
それまでサボは、アリーシャの寝顔を見たことはなかった。師匠としてその背中を追いかけ、恋心を抱き、いつか自分が彼女のことを守るのだと思って日々強くなろうとしている。いつも自由で奔放で、元気に笑いかけてくれる彼女を、いつかは自分が――
「寝顔は幼いんだな」
サボはふっと笑みをこぼした。
師匠の新しい一面を発見した、十五歳の日のこと。
2025.12.10 青に焦がれる