いつか、こんなこともあるんだろう

「サボ、おかゆ作ってきたよ。食べられる?」
 フレイヤの声で、サボはゆっくり瞼を開いた。膜が張ったようなおぼろげな輪郭が少しずつはっきりしてくる。心配そうな彼女がこちらをのぞき込んでいるのがわかった。
「……食うよ」
「ちょっと待ってね」
 と、フレイヤに背中を支えてもらいながら上半身だけ起こした。まだ気だるい感じが残っている。さっき取り替えたばかりの衣服は少し汗がにじんでいたが、着替えるほどじゃないからこのままでもいいだろう。
 風邪を引いたことなどほとんどない人間が突然熱を出したら周囲も驚くようで、明日は雪だの、矢が降るだのと部下たちがこぞって失礼なことを言っていた。それでも仕事ができないわけではないから、夕方までなんとか乗り切ったのだが、結局そのあと執務室で倒れた。ハックが医務室まで担いでくれたらしい。
「熱いから気をつけて。はい」
 ふーっと冷ましてくれたおかゆ一口分が差し出される。腕を動かすのも億劫に感じて、サボはそのまま口だけ動かした。
「ん」
 塩味がきいた素朴な味のおかゆには、玉子が入っていた。
 医務室なのに肝心の医者は不在らしくフレイヤだけだったが、介抱されている姿を見られるのもきまりが悪いのでちょうどよかった。最初こそ、彼女にでさえ弱っているところを見られるのには抵抗があった。できることなら、男らしくて強い面を見てほしかったし、彼女の前では常にかっこいい自分でいたい。そう思っていた。
 しかし、今はそうではないときもあっていいのだと思える。フレイヤとはこの先もずっと共に生きていくのだから、支え合うってこういうことなのだと。
「ありがとなフレイヤ
「炎をまとうサボが寒さに強いのはわかるけど、最近仕事のしすぎで心配だった。ちゃんと休息もとらないとダメだよ」
「そうか……悪ィな、心配かけた」
「ほんとだよ。だから今日は私の言うこと聞いてね」
 はい、とふたたびスプーンですくったおかゆを差し出されたので素直に口を開く。エプロンをしたままなのは、急いで持ってきてくれたからだろう。自分の恋人は本当に良い奥さんになるなと、熱のせいにして思った。

2025.12.14 たし恋