いつかのドラゴン

 甲板に出ると雪が降っていた。昨日の時点ではそんな素振りはなかったのだが、あれから急激に気温が下がったらしい。
 サボはコートの襟をただして、目の前の女に視線を移す。朝飯の準備まで少し時間があるからと先に甲板に出ていった彼女は、一センチほど積もった雪に感動していた。そしてこちらの姿を見つけると、ぱぁっと表情を明るくさせて手を振ってくる。
「サボ見て! 息が白いよ!」
 フレイヤが頬を赤らめて手招きする。彼女の愛らしい姿にクスッと笑みをこぼしつつ、サボは彼女に近寄った。コートを着ていても船内と甲板では温度差があるので寒そうだ。しかし、今の自分なら能力を使えばいつでもどこでも簡単に炎を作り出せるから便利だ。こうしてサボは、今日も彼女の目の前に小さな炎を作ってやる。
 ありがとう、と両手を炎の前にかざしたフレイヤが「そういえば」とふいに思い出話を語りはじめた。
「昔ね、息が白くなるのを面白がってドラゴンだーってカロリーナに言ったことがあるの」
「その話は初耳だな」
 詳しく聞けば、三歳の頃、冬に吐き出す息が白くなることに驚いたフレイヤが、読んだ絵本に出てくるドラゴンが火を噴くのを見たのを思い出し、自分もドラゴンだと真似してメイドに自慢げに話したんだそうだ。なんだその可愛いエピソード。
「三歳のフレイヤか……」思わずその姿を想像してしまい、口元がゆるんでしまう。
「なに笑ってるのっ」
「いや悪い。無邪気にドラゴンって言って火を噴く真似をするお前を想像したら可愛くて……カロリーナさんも驚いただろうな」
 子どもというのは時に大人も考えつかないような想像力を発揮するものだが、白い息をドラゴンが火を噴く様子に例えるのはなんとも可愛らしい想像だ。サボはいつの日かの彼女を想像しつつ、つい悪戯心が働いてしまってこう言った。
「やってみせてくれよ。そのドラゴンってやつ」
「……ッ! からかうなんてひどい、サボのばか!」
「はは、怒るなって」
 ぽかぽか叩かれたが痛くないのでそのままにしておく。話すんじゃなかったとフレイヤが拗ねて、船内へ戻ろうとするので、サボはあわてて追いかけた。今日も彼女が可愛くてたまらない。

2025.12.16 たし恋