私しか知らない彼
部屋に入ると、お風呂上がりらしいサボがタオルを肩に引っかけたままソファに転がっていた。面倒なのだろう。髪を乾かしていないせいで髪から水滴がぽたぽた落ちている。
「ねえサボ。髪は乾かしたほうがいいよ」
「……あとでやる」
今、間があった。この答え方は絶対やらないな。長い付き合いだからこそわかる。
参謀総長は強くてかっこいい。
後輩たちはそうはやし立てるけれど、結構だらしないところもあれば雑な一面もある。皆が知らないだけで、彼は意外と見た目通りではない。まあそれを可愛く思ってしまう私は重症かもしれない。
ため息をついてソファに近づき、サボの髪に触れる。
「いくらサボでも、乾かさなかったら風邪ひくよ」
大体なんで上半身裸なんだろう。私にはしょっちゅう「足を出すな」「肩を出すな」と小言を言うくせに。
「大丈夫だって。この能力があれば簡単にあったまる」と、人差し指に炎を灯す。
自信満々な表情をされて危うく流されるところだが、それで体は温まっても髪は関係ないと思う。
「ダメ。はい、起きて」
私が折れないと察したのか、サボはじっとこちらを見つめたあと降参したように起き上がった。ところが、そのまま洗面台に向かうでもなく何か考えるような仕草をして、またこっちを見てくる。そして犬が遊んでほしいと訴えるような目を向けて私に近寄ったかと思うと、
「……なら、お前が乾かしてくれよ」
「え?」
「いいだろ?」
ソファに座り直したサボは待っていますと言わんばかりにその場を動かない。まるで甘えてくる大型犬そのものだ。かっこいいとはしゃぐ後輩たちが見たらどう思うだろう。かわいい一面もあるんですねって逆に興奮するかもしれない。私みたいに。
「ったくもー仕方ないなあ」
急いでドライヤーを取りに行き、ソファに戻ってから「今日だけだからね」と、ドライヤーのスイッチをオンにする。普段のふわふわした髪は、まだぺったりくっついたままで少し幼く見える。
「んー……気持ちいいな」
ドライヤーの風で揺れる前髪の隙間からサボと目が合ってドキッとする。気恥ずかしくて視線を逸らそうとしたら、手首を掴まれてぐいっと引き寄せられた。引きはがそうとした瞬間、「ありがとう。お前の手、落ち着くな」ととろけるような甘ったるい顔で笑いかけてくる。……ズルい。内心憎たらしく思いながらも、このギャップがたまらなく好きなのだ。
2025.12.20 原作軸