失恋の冷たさを吹き飛ばす笑顔

 夜の十時過ぎ。クリスマス直前で彼氏にフラれた悲しみを紛らわすためにお気に入りのラーメン屋へ来ていた私は、カウンター席の隅で味噌ラーメンをすすっていた。このタイミングでほかに好きな子ができたとは、虚しいにもほどがある。
 時間も遅いからか、店内は私と会社帰りのサラリーマン二人組だけだった。月曜日の夜遅くにラーメンを食べるというのも珍しいのかもしれない。
 と、そこへガラガラと入口の引き戸が開いて二人組が入店してきた。片方は黒髪で活発そうな少年、もう片方は金髪の落ち着いた雰囲気が漂う青年。随分とにぎやかそうな二人だ。
「ここのラーメンはすげェうめーんだ」
「わかったから落ち着けルフィ」
 二人がカウンター席へ向かってきたのはいいが、なぜか私の隣に座ってメニューも見ないまま、
「おっさん! 味噌チャーシュー大盛り、あとライスもくれ!」
「おれも同じもので。ライスはなし」
 と、そろって注文するからちょっと困惑した。
 気にせず自分のラーメンに集中していると、彼らの前にもどんぶりが置かれた。大盛りと言われるだけあって、麺が隠れるほどのチャーシューが乗っかっている。
「うっめ〜〜!」
「おいルフィ。そんな急いで食うと、」
「ぐえっ」
 ルフィと呼ばれた少年が麺を喉に詰まらせたのか、苦しそうにもがきながらコップの水で押し流そうとする。ちらりとその光景を見ていると、偶然にも金髪の青年と目が合ってしまった。
「うるさくてごめんな」
「いえ。私も常連客なのでにぎやかなのは慣れてますし、落ち込んでたから逆にちょっと救われました」
「常連なのか……なら、おすすめの食べ方はあるか?」
 まさか会話が続くとは思わなくてぽかんとしてから、すぐにいつも自分がやるとっておきの方法を彼に教える。「このニンニクをいれるとさらに美味しいです」卓上に置いてあるニンニクを示すと、彼は「へェ。試してみるか」と興味深そうにひとさじすくって入れた。
 そのままスープをすすった彼の第一声は、
「お、美味い! 教えてくれてありがとう」
 弾けた笑顔が眩しくて、失恋の寂しさが些細な優しさでほどけていく気がした。
「じゃ、じゃあ私はこれで」
「……暗いから気をつけて帰れよ」
 まっすぐに見つめられて戸惑いながらも、軽い会釈で返して会計を済ませた。外に出ると夜風は冷たいが、背中がなんだか温かい。
 ちらっとラーメン屋を振り返ってさっきの彼を思い出す。またここで会う気がする――そんな予感がした。

2025.12.22 現パロ