かじかむ手

「まだ見つからねェのか?」
「だから寒くてページがめくれないんですってば」
「ったく……仕方ねェな」
 雪を踏むキュッキュッという音とともに、総長が彼女に近づいた――かと思うと、器用に口で右の手袋をはずした。そのまま彼の手は彼女の手を覆うように重なり、自然な動作でページをめくる。男の骨ばった逞しい手は、華奢な女の手を容易に隠せるほど大きい。
 会話はいたって普通のやり取りに聞こえるが、やっていることはだいぶ普通ではない。これで二人が付き合っていないというのだから、彼らはどうかしている。いや、主に総長のほうが。
 標的となる店を探している最中のことである。入り組んだ町の地理は、初めて来る人間には難しく地図が必須だったが、案内役の彼女の手が寒さでかじかんでしまい、本のページがめくれず苦戦しているらしかった。それで、あの会話だ。意味が分からない。距離感おかしいだろ。
 この前だってそうだ。
 物資調達のために彼女が船を下りようとしたら、総長が「おれも行く」と真っ先に名乗り出ていた。これは部下を心配する上司と考えれば特別おかしくはないが、彼女でなければ起こらない現象なのでやっぱりおかしいという結論になる。
「もしかして距離がおかしいって思ってる? まあ気持ちはわからないでもないけど」
 相当悩ましい顔でもしていたのか、幹部のコアラさんからこそっと話しかけられた。総長たちから少し離れたところで見守っている彼女は呆れているようにみえて、けれど実のところ早くくっつけとせっつく人だ。一番近くで二人を見ているからこそ、気になるところがあるのだろう。
「付き合ってない男女ってああいうものですかねえ」
「それはないよ。サボ君たちがおかしいだけ」
 即座に否定したコアラさんに思わず笑って、「ですよね」と同意した。

2025.12.03 原作軸