いつもの
自動扉の開閉音が聞こえて、自然と視線はそちらに向けられる。
あ、来た。今日はいつもより少し遅めだな。
気づかれないようにちらっと彼を盗み見てから視線をすぐ元に戻す。今日もかっこいい。眼福。ありがとう神様。心の中で感謝を述べてからふぅっと深呼吸を一度。この顔を直視するのは勇気がいるし、見たら見たで興奮を抑えるのが大変。
気持ちを整えてから「よし」と気合いを入れて、カウンター前の客に笑顔を向ける。
「いらっしゃいませ、ご注文はいつものでよろしいですか」
「はい」
「かしこまりました。それでは368円になります」と、同時にブレンド一つと中で作業している同僚に声をかける。
このやり取りもいつもと同じ。彼はスマホで支払う電子決済を選択する。しなやかな指が素早く動いて、いつの間にかレシートが発行される。そのレシートはいらないと言われるから本当なら聞くまでもなく廃棄するところを、マニュアル通りに一応うかがってからやっぱり「いらない」と言われて捨てる。
最近よく来るこの男性客は濃いグレーのチェスターコートに紺のスーツ、そしてふわふわの金髪という、それはもうものすごく美形の会社員だ。近くに自社があるのか、それとも顧客の会社がこの近辺なのか。そのあたりはわからないけれど、とにかくイケメンの常連客ということで私たち店員の間では話題になっている。
名前も知らないし、年齢も知らない。でもクリスマスムードが漂う中、彼氏なしクリスマスの予定もなしの私にとって目の保養であり、密かな楽しみだった。
次の客がいないのをいいことに、コーヒーができるまでちらちらと彼を見やる。うーん、やっぱりかっこいい。彼女いるのかな。いやいや、いなかったとしてどうすることもないけれど。
そんなくだらないことを考えている間に、同僚からカップを渡されて我に返った。
「お待たせいたしました、ホットのブレンドです」
出来立てのカップを手渡す。だが、彼は受け取らずになぜか笑っていた。「……?」訳が分からない。
「見すぎ。まァ悪い気はしねェけどな。いつもありがとう」
まぶしいくらいの爽やかな笑みで言った彼は、ようやくカップを私の手から受け取るとそのまま自動扉まで歩いて出ていった。ぽかんとして見送っていたが、見ていることに気づかれていたという事実を理解するまでに数秒要したのだった。
2025.12.04 現パロ