きみを守る手

 きゃっ、という可愛らしい悲鳴を聞いたサボはすぐに振り返って駆け寄った。声がフレイヤだとわかれば、条件反射のように体が勝手に動く。
 案の定、彼女はちょっとしたハプニングに見舞われていた。雪で足を滑らせたのだろう、尻もちをついてしまった彼女が痛そうに腰のあたりをさすっている。雪道は慣れていないと滑って転ぶ奴が多いというから気をつけないといけない。探している店がどのあたりかを確認するために、彼女から少し目を離しただけだったのだが、その"少し"で転んでしまったようだ。
 サボはフレイヤの目の前に手を差し出した。
「大丈夫かフレイヤ
「うん。やっぱり雪って滑りやすいんだね、気をつけないと」
 ありがとうと言ったフレイヤの手を引っ張り、反対の手は腰に回して起こしてやる。温かそうな白いダウンコートを着ていても身体の細さは触ればすぐにわかるし、一度触れるともう少し堪能したいのが自分という生き物だ。
「サボ、もう大丈夫だよ」
「んー……このまま離しちまうのは惜しい気がするんだよな」
「あ、ちょっといまお尻に触ったでしょ! えっち!」
「気のせいだろ。それより危ねェからこのまま行こう」
 目的の場所までまだ少し距離がある。治安が悪いというわけではないし、自分がいるからそんなことには絶対にならないが、フレイヤに対する卑しい視線を遮断するには有効だろう。隣を歩いている男がいるというのに、まったく油断ならない。
 危ないというのは――もちろん、二重の意味だ。

2025.12.05 たし恋