煩悩退散!
※『青に焦がれる』のネタバレがあります。本編を未読の方はご注意ください。
「脱いでアリーシャさん」
サボは自分の服に手をかけてコートからベスト、シャツ、そしてインナーもすべて脱いだ。下はそのままに上半身だけ裸になる。こちらがさっさと済ませているのに対して、しかし、相手の反応が一切ないことに違和感を覚えてサボは彼女を見た。直後、顔を逸らし「サ、サボ。脱ぐってどういう……」動揺しまくりの彼女に、ようやく言い方を間違えたことに気づいて、「あー……」と歯切れの悪い声を出してから、
「川に落ちて服が濡れてるだろ。このままじゃ体温奪われるから脱いだほうがいいって意味だ。別に変なことするためじゃねェよ」
「あ、そういうこと」
あからさまにほっとされて、それはそれでちょっとムカつくが、仮にも任務中なので我慢する。
さかのぼること三十分前。雪山をアリーシャと歩いていたときのことだ。雪が積もっていて、舗装された道との境目がわからなくなっていた。そのせいで、足を踏み外した彼女を庇ったまま一緒に下まで落ちてしまった。ツイていないことに落ちた先が川で服はびしょ濡れ。奇跡的に、近くに山小屋があったおかげでなんとか事なきを得たというわけだ。
「服脱いだらそこにある毛布を被っとけ。おれは火をつける」
アリーシャに指示を出したサボは、彼女とは反対方向にある暖炉の前に座り込んで近くにあった火打ち石と金属を擦り合わせる。こういうとき、炎が自由自在に操れるあいつがいたら便利なんだけどなァと詮無いことを考えていた直後、
シュル――
布が擦れる音がして、サボの心臓は大きく跳ねた。いや、自分から脱げとは言ったし、任務中のアクシデントであってそれどころではない。だが、サボは十年以上もアリーシャに恋心を抱き続けて、最近ようやくその想いが実を結んだばかりだ。浮かれて何が悪い。
と、いろいろ言い訳を自分の中に作っている間に火がついたのでそのまま薪をくべて炎が大きくなるのを待つ。煩悩も一緒にこの中で燃えちまえ。
「ねえサボ」
そのとき、着替えが終わったらしいアリーシャの声がすぐ後ろで聞こえた。「いくら暖炉の前って言ってもその恰好じゃ寒いでしょ。毛布、一緒に被ろう?」
振り向くより早く彼女にそんなことを言われてしまう。
この女、どうしてくれようか。
サボは生まれてはじめて、愛おしい相手に軽く憎らしさを覚えた。
2025.12.06 青に焦がれる