男には負けられない戦いがある

 きっかけはリュカの一言だ。
 男は勝負を申し込まれたら受けて立つのが当たり前であり、それがたとえ十二歳のガキであっても変わらない。何よりこいつはフレイヤのことが好きなのだ。負けるわけにはいかないだろう。意気込んで勝負を受けたはいいが、近くで雪だるまを作って遊んでいた小さな女の子が勢い余って転びそうになったので慌てて受け止めようとしたのが運の尽きである。尻もちで済めばよかったものの、すぐ後ろが坂になっていたせいでそのまま転がり落ち、盛大に頬を擦りむいた。
「子ども相手に本気で雪合戦なんて大怪我したらどうするの」
 手当てをしてくれているフレイヤがむくれている。水をしみ込ませたガーゼが頬を往復していくたび、地味に痛い。
 暖かい部屋には、雪遊びを中断された子どもたちが絵本を読んでいた。暖炉の前で三つのグループができていて、さっきまで「雪だるまを作ってる途中だったのに」と不貞腐れていたはずが、すっかり楽しそうだ。
 自分と同じで雪合戦をしていたリュカは、暖炉前の一人がけソファでぶすっとした表情のまま火を睨みつけていた。不機嫌な理由は、決着する前に勝負が一時中断になったことだけではないだろう。
「これは雪合戦で怪我したわけじゃない」
「そうだけど、私は皆の面倒を見ててって言ったのになんでサボまで参加しちゃうの」
「男にはいろいろあるんだよ」
「も〜なにそれっ!」
「いてっ……フレイヤ、もう少しやさしく――」
「我慢して」
「……」強い口調で言い返されて、サボは押し黙った。フレイヤが怒ることは滅多にないが、時々こうしてはっきり負の感情を向けることがある。
「心配させないで」
 そんな不安そうに見つめられたら言い訳する気も起きなかった。フレイヤにこんな顔をさせたいわけではない。
「うん……悪かった」
 素直に謝り、フレイヤの頭をゆっくり撫でる。たちまち表情を和らげた彼女に、リュカとの勝負もどうでもいいかと思っていたとき、
「おいサボ、いつまでイチャついてんだ。手当てがおわったら続きやるから覚悟しろよ」
 まるでこちらの様子を見ていたかのようなタイミングでリュカが雰囲気をぶち壊してきたので、フレイヤが慌てふためいて子どもたちのほうに逃げてしまった。

2025.12.07 たし恋