カイロ

「う〜寒くてしぬ……」
「ほんとに寒すぎる」
 友人とそんな会話をしながら身震いをして、廊下の中ほどに位置するトイレから教室に向かう。学校の廊下とは、どうしてこんなにも寒いのだろう。窓からのぞく陽光の弱さも相まって余計に寒さを感じる。クリスマスとお正月は楽しいけれど、冬のお楽しみといったらそれくらいなので冬はあまり好きではない。
 丸めた両手にはぁっと息を吐きだして暖をとる。
「そんな恰好してるから寒いんだろ」
 こつんと後ろから頭を小突かれて、何事かと振り返った先にいたのは腐れ縁のサボだ。中学は違うのだが、保育園と小学校の途中まで同じだったので、いわゆる幼なじみというやつだ。家が隣同士だったこともあり、自然と仲良くなって登下校を共にするようになった。
 しかし、ある日突然彼は私の前から姿を消してしまったのだ。後になって両親といろいろ揉めたらしいことを知ったのだが、その真意を聞くこともできないままもう会えないと思っていた。だから入学式の日に名前を見たときは驚いたものだ。再会できた上に、同じクラスになるなんて思ってもみなかった。こちらは結構な衝撃を受けたというのに、まるで数日顔を合わせなかっただけのような気軽さで「久しぶり」と言ったこの男を、いっそのことふざけんなと一発くらい殴ってもよかったかもしれない。
 でも、結局彼に会えた喜びのほうが勝ってなにも言えなかった。
「……サボには関係ないでしょ」
「そう冷たいこと言うなよ。クラスが離れてからなかなか会えねェのに」
「別に嬉しくない」
 ああ、かわいくない。もっと可愛げのある言い方だったら、サボだってもう少し女扱いしてくれるかもしれないのに。でも、小さいときに拗らせてしまったこの想いは、私を素直さから遠ざけるばかりだ。
「とにかく、あまり足出すな。……ほら」ほいっと何かを投げられて、「わっ」なんとか反射神経で受け止める。熱を持ったそれは――
「カイロ……?」
「女なんだから冷やすなよ」
 そう言って去っていくサボの背中を見つめながら、呆然ともらったカイロを握りしめる。隣で様子を見ていた友人が肘をついて「ちゃんと女の子扱いされてんじゃん」と冷やかしてくるが、私の心の中はそれどころじゃなかった。急激に火照ってきた体をどうすればいいのか、せっかくもらったカイロが今は意味をなしてくれそうもない。

2025.12.08 学パロ