冬の体育館

 補講が終わった午後五時過ぎ。そのまま帰ろうかと思ったものの、今日が水曜日だったことを思い出して、私の足は体育館のほうに向かった。五時ならまだ練習していると思ったから。
 渡り廊下に出た瞬間、びゅぅっと北風が吹いて身震いする。最近は秋を感じられないまま冬になることが多くて困る。体がついていかない。足早に廊下を通り過ぎ、人ひとり分なら通れるくらいのすき間が開いている鉄扉からチラッと中をのぞく。
 直後むわっとした熱気を感じ、ダムダムと床を規則的に叩く音や怒号に近い掛け声が耳に届く。試合形式の練習なのか、赤と青それぞれのゼッケンを着た計十人が、コートの中を駆けている姿が見えた。その中に青の4番をつけている金髪の男が見えた途端、私の視線はその人物に釘付けになった。得点能力も高ければ、味方に指示を出すのも上手い――いわばチームの司令塔だと、女バスの友人が言っていた。
 ――う〜やっぱりかっこいいな。
 十二月でも体を動かしていれば汗をかくのだろう。ゼッケンで額の汗を拭う仕草が妙に色気がある。まだ高校生のくせに。そんなことを思いながらしばらく試合の様子を眺めていると笛が鳴って、十五分休憩というコーチの声がかかった。
 直後、ぞろぞろと部員たちが扉のほうに向かってくるのが見える。慌てて隠れようにもそのような場所がなく、結局男バス部員と顔を合わせる羽目になり、当たり前だがこんなところで何してるんだという訝しげな表情をされた。その中には件の男も混ざっている。視線が合った瞬間、彼が目を丸くして立ち止まった。
「……ミョウジも残ってたのか」
 サボ〜先行ってるぞ、と仲間が次々に私たちを通り過ぎて水飲み場のほうへ向かっていくのを眺めながら、「あ、うん。物理の補講があってちょっと……」と答えたものの、わざわざ体育館に来る理由にはなっていないので気まずい。まさかサボのバスケ姿が見たくて来たとは言えないし、かといって上手い言い訳も思い浮かばない。
 内心焦っていると、「急いでねェならあと三十分待てるか?」とサボに聞かれた。どういうことなのかのみ込めず戸惑う私に、「もう暗いだろ。送ってく」彼が畳みかけてくるものだからさらに焦ってしまう。そんな私の様子に腹を抱えて笑う彼が憎い、水曜日の夕方のこと。

2025.12.09 学パロ