悪い子と悪い事

 隣の温もりがないことに気づいて目が覚める。やっぱりいない。でも私に布団をかけていく優しさはあるらしく、嬉しくて笑みが漏れる。もぞもぞと右手を布団から出して、ベッドのそばに投げ捨てられているシャツを拾い上げるとゆっくり起き上がった。
 ショーツだけ履いてノーブラのまま頭からかぶれば、太ももの三分の一は隠れるから彼との体格差を実感させられる。染みついた煙草の匂いに安心して、扉のすき間から微かに漏れ出る明かりを頼りにキッチンのほうへ向かった。
 薄暗いキッチンから換気扇の鈍い音がする。青白い光の真下、こちらに背中を向けるように紫煙をくゆらせている男が一人。パンツ一丁という心許ない恰好だけれど、あの逞しい背中がいとおしい。誘われるまま、名前を呼んでその大きい背中に抱きつく。

「……わり、起こしたか」

 振り返らずに返事した陣平は、とっさに煙草を灰皿の上に置くと、私にかからないようわざと顔を背けて煙を吐き出した。ヘビースモーカーでありながら、そうした小さな心遣いをしてくれるところが好きだ。ほんのり苦い煙草の香りが鼻をかすめる。

「ちょっと寂しかった」
「ガキか。吸ったら戻るっつーの」

 笑い飛ばしたかと思えば、くるっと首をひねって「つーかお前。何してっかわかってんのか?」と急に声のトーンが低くなった。くっつけていた額を離して顔を上げると、陣平が眉をひそめていた。

「え、私なんかした?」まるで理由がわからず、そう聞くと呆れたため息を漏らして、
「……当たってんだよ、さっきから。……無自覚かよ」

 低い、熱を帯びた声で返された。「あ、わっ、ごめんっ……」自分がノーブラだったことを思い出し、慌てて離れようとしたけど遅かった。陣平の大きな手によって腰を抱き寄せられ、正面から向かい合う形になる。
 突き刺さるような視線に居心地が悪い。逃げ場を失い、彼の目を見れず視線を床に落とすと、Tシャツのゆるい襟ぐりから彼の指先が侵入してくる。その迷いのない指はするすると滑っていき、鎖骨のラインをなぞっていく。

「なにしてんのっ……」
「寝かせてやろうと思ったのによ。……誘われちゃあ仕方ねぇよな」
「え、」
「いいぜ、望み通り抱いてやるから覚悟しろ」

 灰皿の上の煙草を潰して、換気扇の照明を消した陣平は私の体を軽々と抱え上げると寝室へ向かっていく。ジタバタもがいてもこちらに拒否権はないらしく、乱暴にベッドに降ろされた衝撃で着ていたTシャツの裾がめくれ上がる。今さら恥ずかしがるような仲でもないけど、スイッチが入ってしまった獰猛な雄の彼はまたひどく色気があって眩暈がする。「自業自得だぜ」と掠れた声が耳をくすぐった直後、熱い胸板で視界が覆われた。