低い声で鼓膜を揺らして

 ふと目が覚めたとき、視界いっぱいに大好きな背中が映って思わず頬が緩んだ。しかし、すぐにそこに広がる無数の傷に気がついてハッとする。
 ヘッドボードに置かれた手提げ灯の淡いオレンジ色の光に照らされたそれは、見た目には何かの勲章のように思えるのに、実際は自分がつけてしまった傷であることを思い知らされて申し訳なく思う。しかし同時に、不思議と嬉しさや優越感のようなものが広がっての胸を温めていく。
 "はじめて"のとき、案の定痛くてどうしようもなくて、でもそれ以上に嬉しくてサボの背中に縋りつきながら果てたことを覚えている。そのときはただただ無我夢中だったから、爪を立てたことにも気づかなかったけれど。最初の傷はもうどこにもない。今あるのは、最近できたものばかりだ。
 もそもそとシーツの上を移動してサボに近づくと、起こさないようにそっと傷に触れた。小さなものから、深いものまで。その時々で異なる傷は、の快楽を必死で我慢する声にならない叫びを表していた。
 だって、サボが気持ちいいところばかり突いてくるから――最初こそよくわからなかったのに回数を重ねるうちにどこがイイのか、今ではよりもサボのほうが自分の身体に詳しくて、だからいつも終わったあとは意識が朦朧としてしまう。
 任務で本部にいないとき以外、彼は決まって部屋に呼んでくれる。ときどき彼のほうから来ることもあるが、大体はがサボの部屋で待っていることが多い。気遣うつもりで休まなくていいのか聞いたのに、彼は自分と過ごすことが休むことになるらしい。そう言われてからは、どんなに遅くても待つようにしている。もちろん、仕事が立て込んでいるときはこちらから声をかけるようなことはしないけれど。
 ふいに彷徨っていたの視線が肩関節あたりで止まる。これは、さっき――そのときの行為を思い出して赤面する。
 指先で少し赤くなった引っ掻き傷をなぞってみる。当たり前だが、魔法でも使えない限りなぞっただけでは傷は消えない。
 ――私、こんなに爪立ててたんだ。
 さっきまでは嬉しくて仕方なかった温かな気持ちが急速に冷えていく。よほど強く立ててしまったのか、若干赤くなっている部分もある。再び負い目を感じて、労るように指の腹を往復させた。
 そういえばサボはいつもの背中を楽しそうに撫でていることを思い出して同じように真似してみる。が気持ち良さに耐えるために付けた傷を、今は優しく愛でるように撫でていく。寝ているのをいいことに、触れるだけのキスも落としながら。
 サボは華奢なように見えて、しっかり鍛えていることは知っていた。以前訓練中の様子を見たことがあるが、鍛え上げられた筋肉に目を奪われたものだ。幼い頃のコルボ山での生活もそうだし、そうした積み重ねが今の彼を作っている。
 サボへの愛おしい気持ちが溢れて、傷をなぞりながら思わず「好き……」とこぼしてしまった直後、の視界が突然別のものに切り替わった。

「随分と可愛いことしてくれるな? もう一回ヤリてェのか?」

 気づけば体をシーツの上に縫いつけられ、サボが楽しそうに見下ろしていた。

「起きてたのっ……?」
「あんなふうに触られたら起きるだろ。ってことで――」
「まってっ……」
「待たねェ」

 何が彼を乗せてしまったんだろう。
 制止するのも虚しく口を塞がれる。息継ぎもままならない角度を変えたキスをされ、の頭の芯はびりびりと痺れていく。侵入してきた舌に、自分のそれを搦めとられて。のぼせていく。

「お前が悪いんだぞ」
「……っ」
「あれは反則だろ」

 腹部から徐々に上へ、指先が這う。やさしく、そっと。労るような、気遣うような。繊細なのに、やけに官能的。
 それはさっきがサボにしていたような触れ方にどことなく似ていて、混濁する意識の中、妙に納得してしまった。
 煽ったのは"わたし"だ。
 サボの首筋に縋りつく。名前を呼べば、愛おしげに微笑まれる。その視線だけで溶けていきそうになる。
 膝裏を持ち上げられて、太腿に触れるだけの口づけを。

「おれの気持ちわかっただろ? 大人しく抱かれてくれ」

2022/8/26
たし恋見てみたいエピvol.3
背中の傷を気遣うような手つきに煽られたサボくんにもう一度抱かれる話