報告書の確認のあと、そのまま作戦会議に入るサボは本部の廊下を歩いていた。来月実行予定の案件が迫っているため、各自の役割を詰めておく必要がある。参謀総長としてこの任務の指揮官を務めるサボは会議の中心にもなっているため、部下達の提案を聞きながらああでもないこうでもないと遅くまで話し合う。
執務室を出てすぐ会議に参加する部下数名と会って同じ場所へ向かいながら取りとめのない会話をする。
今日はやけにスケジュールが立て込んでいると思えば、コアラとハックが揃って事後処理をこちらに回してきた関係で、朝から休む暇がなくあちこち歩き回っている。とはいえ、サボも来月任務で本部を後にしてしまうため片付けられる仕事は先に済ませておくほうがいい。溜めるとろくなことにならないからだ。
会議室へ向かっている途中、サボの視界に吹き抜けの中庭で独りぽつんとしゃがみ込んでいる人間がいることに気づいて自然と足が止まる。季節は夏に近づいているというのに、手足がきっちり隠れる服装をしているのは本部の中じゃ浮いているが、その理由を知っているだけにサボは笑みを隠せなかった。
こちらからは丸まった背中しか見えないものの、中庭はちょっとした庭園になっているのでそいつが何をしているのかある程度想像できる。
――そういえば、近々花が咲くとか何とか言ってたな。名前は……モンスターみたいなやつだったか。
急に立ち止ったサボを不審に思ったのか、部下達がこぞって「どうしたんですか」と尋ねてきた。「ん? ああ悪い」答えつつ、視線は変わらず中庭に向けたまましばし逡巡する。
会議まで数分ある。場所はこの角を曲がった先。少しくらいなら――大丈夫だろう。
「悪い。すぐ戻るからお前らは先に向かってくれ」
輪から外れて、サボは一人中庭のほうへ方向転換した。突然のことに驚く部下達の「え、あ、総長!?」「どこ行くんすかー」という声には反応せず、まっすぐ目的の人物がいるところへ。
休む暇がなかった分、少しくらいならいいだろと自身に言い訳しながら、サボの足取りは先ほどよりも軽くなっている気がした。
本部の中庭は誰が始めたのか、どこかの豪邸にでもあるような庭園が築かれている。吹き抜けになっているため太陽の光が注ぐ造りになっていて、サボが来た頃よりも圧倒的に植物の種類が増えているのは知っていた。
革命軍本部には薬剤師が管理する薬草園があるが、それとは別に観賞用に造られたのがこの中庭らしい。庭師という役職がいないにもかかわらずきちんと整備されているところを見ると、誰かが手入れしていることは間違いない。花には詳しくないサボでも、その美しさは見ただけでわかる。
それが最近になって、自ら志願して中庭を手入れしている人間が現れたわけだが。
「」
遮光用の帽子をかぶって土をいじるその背中に声をかけた。誰かが入ってきたことには気づかなかったのだろう、名前を呼ばれた彼女は肩を揺らして「わっ……」と吃驚した。その拍子にぼとっと鈍い音とともに、彼女の手からスコップが落ちる。
「ごめん。驚かせちまったな」
「えっ、あ、え? サボ? なんでここに?」
「会議に向かう途中でお前が見えたからちょっと、な」
「そうなんだ。でも会議なんでしょう。行かなくていいの?」
いつから作業していたのかわからないが、顔に少し土がついていてなんだかいつもより幼く見える。そのせいか、サボの脳裏にはふと出会った頃の彼女が思い浮かんだ。
なかなか自由に会えなかったと手紙という手段でやり取りをしていた。その頃の彼女は花が好きだと言って、毎回手紙に花の絵と説明が書いてあったのだ。当時のサボにはさっぱりでよくわからない種類ばかりだったが、一生懸命描いたことが伝わる絵にはいつも楽しませてもらっていたのを覚えている。
どうやら花好きは今でも顕在らしく、中庭の庭園を見た途端、顔を綻ばせていた。コアラにでも頼んだのか、庭園の手入れをさせてほしいと自ら名乗り出て雑務の片手間に毎日やっている。
「今日は忙しくてなかなか休憩できなかったからさ、ちょっと充電させてくれよ」
「ん?」
首を傾げたに近づいて、サボはそのまま彼女の体をすっぽり自分の懐に収めた。身長差でいうと彼女の頭はサボの胸の位置にあたり、そのせいで帽子のつばが変な形に歪む。しかしそんなことには構わず、サボは目いっぱい恋人を堪能するように抱きすくめてゆっくり息を吸った。花と土、そしてほんのり汗の香りがする。
しばらくして、腕の中のが「あ」と声を上げたので少しだけ力を緩めて彼女のほうを見る。
「ごめんね。土が、」顔についていた土が自分のシャツにもついてしまったのだろう。がすかさず謝ってくる。
「別にいいって」
「でも……」
「そんなことより。今日も遅くなるかもしれねェけど、必ず行くから」
目線を自分の胸元にいるに向けて告げる。その言葉に彼女の表情がぱっと明るくなるのを見たサボは、たまらなくなって帽子を取り上げると、そのまま噛みつくように口づけた。日に当たっていたせいか、唇は熱くてすぐにでものぼせてしまいそうになる。
驚きつつも応えてくれる彼女に気をよくして迷わず舌を入れる。ここが中庭であることも忘れて、サボは彼女の口内を夢中で貪った。
「んっ……」
の口から甘い吐息が漏れる。一度離して、今度はその可愛らしい唇を甘噛みした。ふるふる、と小さく震える姿は体の奥の熱を呼び起こして、今すぐどうにかしてしまい衝動に駆られる。
しかし、サボの中にかろうじて残っている理性が、会議があること忘れるなと強く訴えかけてくる。名残惜しくの唇から離れると、「ぁっ……」とろんとした双眸がサボをとらえた。
――そんな物足りない目で見るなよ。おれだって……。
理性を総動員させて彼女を自分から引きはがし、盛大なため息とともに一旦心を落ち着ける。
「続きはまた夜にな。起きて待っててくれ」
はあ、と切ない息を吐いたがゆっくり頷くのを見届けたサボは満足げに笑うと、彼女の頭をくしゃりとひと撫でして中庭を後にした。
2022/8/12
たし恋見てみたいエピvol.4
仕事途中に夢主ちゃん見つけて会いに行っちゃう話