図書館に来てを見かけたのは本当に偶然だが、仕事をしていても通信部を手伝っている彼女とは用事があれば会うことは珍しくない。しかし、図書館という場所で見かけるのは彼女が本部に来たとき以来な気がして、サボは不思議に思った。時間帯的に休憩中というわけでもないだろうに、誰かに頼まれたのだろうか。
革命軍の図書館は吹き抜けの二階建て形式になっていて、左右から伸びた階段を上がると二階を一周できるという構造だ。二階といいながら、実は結構高い位置まで書架が伸びている。スライド式の梯子を使えば、高い場所の本も手に取れるというわけだ。
はどうやら本の配架をしているらしかった。階段をのぼって奥のほうの書架へ移動したサボは、梯子の上で作業する彼女をしばらく見つめる。
今朝に見たときは下ろしていたはずの髪が、今はなぜか高い位置で一つに結ばれている。以前サボが贈った花の飾りがついた髪留めは少し離れたところからでもしっかり見えて、やはりによく似合っていた。彼女が動くたびに、尻尾のように束ねられた髪がかわいらしく揺れているのを見て、いつもの悪い癖だが悪戯したい気分に駆られた――というのは建前で、サボの胸の内は不満で占められていく。気に食わない。
モヤモヤとした気持ちを抱えながら近づいていき、彼女がいる梯子の下まで移動してサボは声をかけた。
「珍しいな、お前が中庭以外で髪を上げてるなんて」
「ひゃっ――」
は突然声をかけられて軽い悲鳴をあげた。瞬間バランスを崩して落ちそうになり、全然驚かせるつもりのなかったサボは慌てて梯子を押さえて最悪の可能性を防いだ。
「司書さんに頼まれたの、手が空いてるなら手伝ってほしいって」
大量の本を詰め込んだバスケットを抱えたは、あのあとなんとか持ちこたえてその場に踏ん張ったので落ちることなく普通に梯子を降りてきた。仮に落ちてしまったとして、サボにはキャッチできる自信があるものの怪我をさせる可能性があったので心底ほっとしている。
そうしてある程度会話をしても大丈夫そうな、左右を書架で囲まれた奥まった場所にを連れてきて事情を聞いていた。通信部の仕事にひと区切りがついて本部を歩いていたところ、偶然通りかかった司書に頼まれたのだそうだ。収集した資料が一気に届いたとかで、一人だと配架が大変だから手伝ってくれということらしい。
ちょうど作業もなかったは頼まれるまま図書館へ来て、配架仕事を手伝っていた。あちこち移動して、昇ったり降りたりする際に邪魔だからという理由で、彼女は髪を束ねているようだった。
「ふうん……」
「サボは何しに図書館へ来たの?」
「おれ? あーおれは必要な資料を探しに。まァちょっとした調べ物だ」
少し前に仲間から報告を受けたサボは、そこに記載されていた国名を聞いたことがなかったので調べに来たのだ。コアラ達は手が離せないし、今日の予定が比較的落ち着いている自分が行っても問題ない。そう判断して図書館へ来たわけである。
そうしたら偶然にもがいて、思わぬ遭遇に少しばかり舞い上がっていた。
広い図書館には、珍しく来館者が多くいて離れたところでも誰かの気配や物音を感じる。貸出返却の対応もあって今日の図書館はかなり盛況しているから、の手が必要だったのだろう。
「何ていう国? 私ここに結構通ってるからサボが探してる本、見つけられるかも」
サボの用事が調べ物だとわかると、は顔を綻ばせて自分なら役立てると得意げに言った。ここへ来て一年と経たない彼女がサボより早く目的の本を見つけられるというのもおかしな話だが、嬉しそうに話す彼女に水を差すのも悪いし、何より可愛いので「そうか。じゃあ頼むよ」と笑って返す。
口でそんなことを言っているサボの脳内は、しかし別の思惑でいっぱいだった。
ジッと見つめる先に映るのはの首元で、髪を下ろしているときは気づかなかったが今日はやけに肌が見える。
鎖骨や首筋のライン。女性特有というよりは彼女の身体だから魅力的に感じてしまい、目の前で見せられるとどうしても触れたくなる。
「その前に。少しだけ――」
「なに……え、」
無邪気に資料を探すと言って、やる気に満ち溢れていたの細い首筋に顔を寄せたサボはそのまま軽く吸いついた。
啄む口づけをするように離れては吸いつき、また離れていく。執拗に何度も同じ場所を責めて。時折、舌を這わせたりやんわり歯を立てたり。
サボだって理性がないわけではない。いくら奥まった書架の間とは言っても、所詮は図書館であり周りに人がゼロではないので誰かが通りかかってもおかしくない状況だというのに。燃え上がった熱がサボを飢えた狼にしていく。
「……ふっ……ぅ」
の唇から甘ったるい呻きが零れる。なるべく声を押し殺そうと下唇を噛んで堪えているらしいが、ふとした瞬間に漏れ出る可愛らしい声がサボの欲を煽っていく。
強すぎない、優しい刺激に彼女の表情が蕩けはじめたところで、服の隙間から手をしのばせてそのまま背中をゆっくり撫でると、面白いくらいにの身体がびくんと震えた。
「んっ……」
ガタン――
突然背中に這った手に反応した途端、の身体が力をなくしたように後ろの書架へ倒れた。ずるずるそのまましゃがんでしまいそうになる彼女を、サボは自分の右脚を大腿部に挟んで支えてやる。
「可愛いな。もうとろけてる」猫にするように下顎のあたりを撫でて口づける。短く何度も。
「あっ……ん、ふっ……」
「……ん」
「ぁっ……見られ、ちゃうっ……」
「大丈夫だって」
「やだっ、あ、あっ……っ」
性感帯の背中を刺激されると、いよいよは声を抑えられなくなったので、サボは彼女の口元に空いているほうの手をあてがった。「声、我慢できるよな?」自分の革手袋を食ませて、声を抑えるように囁く。
とろんとした目の彼女が戸惑いつつも頷いたのを見て、サボは続けた。
「大体がおれの前で首をさらしてるのが悪いんだよ」
「んっ……んん」
「痕がないからいいと思ったのか? 今日は涼しそうな首元だな」
言いながら、今度は痕を残すつもりで首筋に吸いついた。
別にが何を着ようと彼女に似合っているのだから文句はないが、この綺麗なラインがほかの奴らの目にもさらされてると思うと面白くない。がサボの恋人だと知っているとはいえ、司書は若い男だし、ほかにも来館者はいる。ならせめて髪を下ろして隠してほしいという身勝手な思いで、サボは痕を付けていく。
手袋を食んでいるの手が耐えきれずに、サボのシャツを弱々しく掴んできた。その仕草にたまらなくなって、サボが彼女に口づけようとしたとき――
「わっ――」
この場にそぐわない驚いた声が響いて反射的に身を竦める。
くるりと首を向けると、若い女が口をぱくぱくさせてどうしていいかわからないといったふうに慌てていた。同じ書架でも普段利用者が少ない大型本エリアのここに、まさか本当に人が来るとは。サボもいっとき目を見開いて驚く。
「えっと……どうぞ続けてくださいっ! 私なにも見てませんから〜〜!」
しかしこちらが口を開くより先に、彼女のほうから一言残して立ち去ってしまった。
「ち、違いますっ……誤解なんです――」と、が通りがかりの若い女の背中を追いかけようとしたので、「違わねェだろ?」すかさず捕まえて引き戻した拍子に、耳元へ唇を寄せてやんわり息を吹きかけた。
「ゃっ……あ、」
「痕付けるまでは逃がさねェから」
髪留めをほどいて、の身体を拘束する。はらりと彼女の髪が舞う。「あ……」驚いた彼女の無防備に開いた唇を、サボは文字通り食べるつもりで深く塞いだ。
2022/09/19
たし恋見てみたいエピvol.14
いい雰囲気の途中で第三者に見つかる話