突然白い部屋に閉じ込められたと思ったら、妙な紙まで置いてあって。おまけにそれに従わなければ出られないというこれまた妙なルールを強要されてサボは唸る。ただ、その紙を見つめながら書いてある内容にはまんざらでもない。サボ一人ならまだしも、この部屋にはもいるのだから。
「残念だが。これは指示に従わないと出られねェんだ、知ってるよな?」
扉を必死に開けようと試みているに向かって、サボは無意味な行動をやめるように説得する。以前同じ境遇になったこともあって、渋々ながらも彼女は諦めて扉から離れるとこちらに戻ってきて嘆息した。
さっきまで休憩していたはずが、気づけばここにいたので「またか」という思いだ。指示の内容によってはおいしいのだが、今回もまた――
「お、お互いの好きなところじゅっ、こ……?」
紙を広げて内容を確認しているが驚愕――というより困惑した表情を作る。彼女にとってあまりにも衝撃的だったのか、固まったまま紙を凝視して動かない。
彼女が口にした通り、サボもさっき確認した指示の内容は『お互いの好きなところを十個言う』ことだった。自分にとって朝飯前の非常に簡単な指令は、けれどにとってはなかなか恥ずかしいことらしく「ええどうしよう」と戸惑っている。当たり前にお互い"好き"という感情は認識しているものの、具体的に"どこ"というのはこれまで口にしたことがなかったから仕方ないだろう。改めて伝えるのは照れくさいというのもわかる。
とはいえ、サボからしてみれば何てことない。の好きなところなどいくらでも言える。それに彼女から聞いてみたいという私欲もあった。自分の"どこ"が好きなのか、気にならない訳がない。
「おれから言っていいか?」
「え」
「まずはそうだな、笑った顔。昔からかわいいと思ってた」
「えっ、あ、そ……そう、なの……?」
まだ一個目だというのに、もうが赤面しはじめた。これくらいで赤くなられては困るのだが、彼女の性格上仕方ない。サボは構うことなく続ける。
「一気に言うぞ。料理が得意なところ、恥ずかしがり屋、誰とでも仲良くなれる――というか愛想がいいって言えばいいのか? まァこれに関しては注意してほしいところでもあるが……の良いところだと思ってる」
「……っ」スラスラ語るサボをよそに、は顔を覆いながら何やら変な声を発していた。耳まで赤くしている。
「一生懸命なところ、嘘が下手なところも好きだし、もちろん可愛いし、小さいところもおれとしては守りたくてたまらねェかな。それと……」
「な、なに……?」
一旦言葉を区切ったサボは、に近寄って顔を覆う手をそっと引き剥がすと羞恥に染まる顔に満面の笑みを向けた。「うぅ」隠せなくなったことでどうすることもできない彼女が無理やり視線をはずして俯いた。
「おれだけに従順なところ、すげェ好きだ」
「そ、それはっ……だってそんなの……」
「あと一つだなーまァ最後はあれだ。おれのことが好きなところ、これに尽きる」
「……っ、もうやめて、恥ずかしくてしんじゃう……」
暴れることこそしないものの、腕を掴まれて自由にできないのは困るのか微かな抵抗をサボは感じていた。小さな抵抗は、けれどサボには痛くも痒くもない。
すべてを言い終えて、の反応に満足したサボは待ちかねたように言葉をかける。
「お前の番だぞ」
「……やっぱり言わないとダメ、なんだよね?」
「そりゃあルールだからな。それにおれだけなんて不公平だろ? たまにはお互いに気持ちを伝えるのも大事だと思うぞ」
言ってからの顔をのぞき込んで、「ダメか?」とねだってみる。彼女は自分のこうした”お願い”に弱いので、首を縦に振る以外にない。わかってこんなことをするサボは周りから見れば質が悪いかもしれないが、どのみち部屋から出る条件だから今回ばかりは仕方ないのだ、と自分を肯定する。
「そうだよね、私ばっかりもらってたらずるいよね」この通りだ。サボの頼みは断らない。恥ずかしがりながらもきちんとそれに応える。だから可愛い。まあ普段はこちらがしたくてしていることだから、もらってばかりと気負う必要はどこにもないのだが。
「ありがとう」
からの愛情表現がないわけではない。性格上二人きりのとき以外は普通に接することで気持ちを抑えているのがわかるから、サボとしてはたまらなくなるだけで。まあコアラ曰く隠せていないとのことだが、それにはサボも同意だ(自分が周りを気にしてないせいもあるかもしれないが)。嘘が下手というのもあるし、とにかく感情が駄々漏れなのだ。そのくせ大胆な行動に出ることもあってたびたび驚かされる。
掴んでいた手首をそっと離して彼女の言葉を待った。
「えっと……か、かっこいいところに、筋肉がすごくて逞しいところ、たまに良い意味で少年っぽいところ、強いところ、兄弟・仲間想いのところ――」
指を折って数えながらが必死に答えていく。頬を染めつつ、でもやるって決めたからにはきちんと実行してくれる。健気だよなァ――と聞きながら、サボは背中がむず痒くなるのを感じていた。
真正面から相手に気持ちをぶつけるというのは人によって恥ずかしく感じるものだが、聞いている側にも同じことが言える。それが好意となれば余計に。
があげてくれた内容を反芻してみて、しかし一つ気になるものがあった。
「ちょっと待ってくれ。少年っぽいっていうのは褒め言葉なのか?」
「私にとってはすごく、かわいいなって」
「……かわいいは嬉しくねェ」
「そう? でもそういうところも好きなんだよ。普段とのギャップってやつ」
「……」
恥ずかしいとか言ってた割に、唐突に「好き」を口にする。彼女のこういうところをたまに恐ろしいと思うのだが、きっと意識していない。
「わかったよ。続きも頼む」
「そうだなあ。包容力があるところ、頼れるところ、優しいところ、気持ちをストレートに伝えてくれるところもすごく嬉しいよ、そのたびに胸があったかくなる」
「……そうか」
急に照れくさくなって、サボは鼻先をこすってから視線をはずした。好かれている自信はあるが、彼女にこちらの想いがきちんと伝わっているのだと改めて実感してこそばゆい。
"好き"という感情は不思議だ。
昨日よりも今日、今日よりも明日。相手への気持ちがどんどん増していく。しかし"好き"という二文字で片付けるには簡易的すぎる気もする。サボがへ向ける気持ちは出会った頃から今日に至るまでいくつもの夜と朝を乗り越えて積み上げられたものだ。
始まりは恋だったし、あまり日が経たないうちに離ればなれになったが、記憶が戻ってから再会するまでの思慕と葛藤、再会してから恋慕は愛に変わり、この先もずっと共にありたい大事な存在だった。
しばらくお互い沈黙していた。なんだか妙な空気になり気恥ずかしさを覚える。と、そこに袖を引っ張られる感覚がして視線を向けると、が「それで最後なんだけど……」とぎこちなく話しはじめた。
「十個目は私も真似することになっちゃうけど……やっぱり、私を好きでいてくれてるところかな」
いつもありがとう大好きだよ、と少し照れながら微笑むにとうとう耐えられなくなって目いっぱい抱きしめた。力強く、その存在を腕で確かめるように。
ああ、好きだ。
、おれもお前のことが好きだよ。
もう一生離してやれない。
腕の中で彼女が苦しそうにもがく。サボの位置からは彼女のつむじしか見えなくてさすがに可哀想かと思い、少しだけ腕の力を緩めると「ぷはっ」と苦しそうに顔を上げた彼女と目が合う。
じわじわと羞恥がこみ上げてきたのか、の頬がまた赤く染まった。大胆なのかそうでないのか本当にわからない。しかし、そんな彼女がやっぱりサボには可愛く思えて仕方ない。前髪をはらって晒された額に軽いキスを落とすと、彼女が嬉しそうに笑った。
扉の開閉音はサボの耳に届いていたが、今この瞬間の幸せを噛みしめるようにしばらく彼女を抱きしめたまま動かなかった。
2022/11/30
たし恋見てみたいエピvol.24
出られない部屋「好きなところ10個」