まるで夢心地

 何かがもぞもぞと動いた瞬間、肌心地の良い温もりが消えてサボは薄っすらと目を開けた。ぼやける視界の中にがベッドから抜けて近くの洗面台に行くのが映る。水の流れる音と小さくうがいする音が聞こえて、喉でも乾燥したのかと起き上がろうとしたが、体がひどく疲れていたから結局そのまま彼女が戻ってくるまで動かなかった。
 三回目の末、ようやく二人で眠りについてからまだ二時間である。どうした、と声をかける間もなく薄手のカーディガンを羽織ったまま再びがベッドに潜り込んできた。
 そのまま寝るのかと思ったらヘッドボードに背中を預けてしまったので、いよいよ気になってサボが起き上がろうとしたその時だった。
 頭に何かが触れた。一度触れたそれはしばらくして離れていき、時間を置いてまた触れる。一定の間隔で規則正しい動きが続いていく。
 撫でられているのだと理解したとき、サボは妙な感覚に陥った。動揺や恥じらい、照れといった面映ゆい気持ちに体が硬直して動かなくなる。二十二歳にもなった男の頭をはゆっくりと撫で続け、時折「サボ」と宝物を扱うように大切に呼ばれて心が叫びをあげた。
 その揺蕩うような心地よさにやめてほしいとは思わなくて、それどころか続けてくれないだろうかとそのまま寝たふりをする。優しい手つきだった。
 の手は、通信部で書類を捌くほか、中庭の花の手入れ、料理、あらゆるところで活躍する手だ。最中はサボの背中に爪を立てたり、お互いの指を絡ませたり――作業する手だからお洒落はしてないが、それでもサボが愛おしいと思うかわいい手だった。
 規則的な動きで頭を往復する手が、今度は髪を弄ぶように変則的になる。
 もっと撫でてくれ――サボは胸中で懇願した。


「……え、起きてた……?」
「お前がベッドから抜け出したときからずっと起きてた」
「あっ、ごめ……これはその……」

 が手を引っ込めてばつが悪そうに視線を泳がせた。頭の上の重みが急に消えて寂しく感じる。違う、そうじゃない。離れないでくれ。
 サボはの手首を掴んで「そうじゃない」と、自分も起き上がると彼女の肩に頭を預けた。突然のことに驚いて彼女の体が硬直する。

「サボ……?」
「撫でられるの、すげェ気持ちよかった。大人になってこんなの恥ずかしいけどな、に撫でられると安心するんだ」
「それは……もっと撫でてほしいってこと?」
「……まァ、そういうことになるかな」

 あー言っちまった。こんなこと言うつもりなかったのに。でもよかった、この体勢なら顔を見られずに済む。
 しばらくしてから、隣でクスッと小さく笑う声が聞こえた。寄りかかっていた肩が離れていき、その代わりにの両手が視界に映った。

「いいよ。おいでサボ」

 瞬間、胸が締めつけられる感覚に襲われる。ああ、なんだこれ。切ないようなむず痒いような不思議な感覚だ。両手を広げてサボを受け入れてくれる小さいのに大きな存在の中へ飛び込む。
 本音を晒して気恥ずかしさは拭えなかったが、この心地よい感触には抗えない。サボは彼女の胸の中でふたたび目を閉じ、眠りについた。

2022/12/10
たし恋見てみたいエピvol.25
頭を撫でる夢主ちゃん