男子禁制ティータイム

 それはある日の談話室でのことだった。休憩時間が重なったコアラと他愛ない話をして盛り上がっていたら、突然彼女が「そういえば」と話を切り出して空気が一変する。さながら午後のティータイムであり、ゆるやかに時間が過ぎていくのを心地よく感じていたが、彼女のむっとした顔には首を傾げた。

「サボ君って自分の用事だけ済ませるとすぐに通信を切っちゃうんだけど、ともそうなの?」

 手にしていたカップをテーブルに置いたコアラは頬を膨らませてやっぱり怒り気味だった。怒っているのにその表情はどこかかわいらしくて、けれど真剣な話しぶりに水を差すのも悪いから黙っている。
 彼女から詳しい話を聞くと、任務先でバラバラに行動する際は電伝虫でのやり取りが欠かせないのだが、どうやらサボは自分の要件だけを話すとすぐに切ってしまうそうだ。確かにそれはとても困る事案だ。
 しかし、はサボとの電伝虫越しの会話を振り返ってみて、そうだっただろうかと疑問に思う。そもそも彼が任務で本部をあけるときは、必要以上にかけたりしない。忙しいことを知っているから、向こうからかかってきたときだけ話すようにしている。だからといって、彼はの話を無下にしなかったし、すぐに切ってしまうなんてこともなかったように思う。

「どうだったかな……そんなことあるようなないような」
「あーその顔は違うんでしょ! もお〜サボ君ってルフィ君にも甘いけどにも甘いよね」
「あ、えっと、その……ごめんなさい」

 コアラの前で正直に打ち明けるのは憚られるから濁したのだが、あっけなく見抜かれて謝罪する。が言ったところで意味はないけれど。

「でもそれだけじゃないよ。船上での生活は当番制だから、サボ君も料理を担当することがあるんだけど適当に切って煮詰めただけの怪しい料理を出したこともあるし、話を聞いてないことだってあるんだからね!」

 先日、買い出しのついでに彼女と寄り道をした専門店で買った異国の紅茶の香りが二人の間に漂う。初めていれるときは一緒に、と約束してから一週間以上あいてようやくそれが叶った今日。彼女とは新作スイーツやカフェ、ファッションから雑貨まで、サボとはできない話を仕事の合間にするのがの楽しみでもあった。
 ところが、急にコアラが何かを思い出したように上司の愚痴をこぼしはじめたので優雅なティータイムは開始から十分と経たないうちに終了し、話がヒートアップしていく。

「コートだってその辺に放っておくこともあるし」
「……それはそうかも。ハンガーにかけるのはいつも私だから」
「ほかにもね、ルフィ君に再会したときは、後先考えずに単独で行動しちゃって私とハックは大変だったんだから」
「あ、その話はサボの部下の皆さんからなんとなく聞いてて……そうみたいだね」
の前でかっこつけてるけど、本当はそう見せてるだけかもしれないよ」

 次から次へとサボのちょっとだらしない一面を語るコアラに気おされながら、は彼女を必死に宥めた。思い返してみれば、彼のそういうところはあまり見たことがないかもしれない。記憶の中の彼がやんちゃだったことは覚えているが、直接会う機会が少なかったためにお互いを深く知る術は文面上だけで、あとは想像するしかなかった。けれど、会ったら会ったでやっぱり想像通りの「私の世界を変えてくれた男の子」に違いなくて、最初から頼りになるしっかりした人だったと思う。
 だからコアラの言う一面は、きっとと離れていたコルボ山でエースやルフィたちと暮らしていた頃の名残なのだろう。

「ふふ。でもちょっと面白いかな〜サボってお兄ちゃん気質だからしっかりしてるんだと思うけど、そういう抜けてる部分があると思うとかわいい」
「……」
「あ、ごめん。コアラちゃんは真剣に話してるのに……」
もサボ君には甘いんだから!」

 コアラがまた頬を膨らませてつまらなそうにする。とはいえ、彼女も本気で怒っているわけではない――もちろん、話を聞いてないことや勝手な行動は目に余るものがあるだろうけれど。
 仕事上でのやり取りを見ていていれば、サボとコアラが信頼関係の深い間柄であることは明白だ。だからきっとちょっと疲れて愚痴をこぼしたい時もあるだけなのだろう。

「コアラ。お前、どこに行ったかと思えばこんなところでおれの話をペチャクチャ喋りやがって……に余計なこと言うな」

 と、話の途中で突然頭に何か重いものが乗っかってきてたまらず「わっ」と驚嘆の声をあげてしまった。コアラの位置からはその姿が見えるらしく、かくれんぼで見つかってしまった子どものように面白くないという顔をしていた。にも声だけでわかる。どうやらサボに見つかってしまったらしい。

「事実だもの。それに今は私とのティータイムなんだから邪魔しないでよ」
「邪魔はしてねェだろ。おれも加わるだけだ」
「呼んでない! 今は女子会中なの!」
「ふ、二人とも落ち着いて」

 二人の間にちょっとした険悪な雰囲気が流れて、は慌てて間に入った。たまに意見がぶつかり合うことはあるが、大抵はいつも――どうでもいいことばかりな気がする。いや、どうでもいいと思ってるのはだけかもしれないけれど。

「じゃあはどっちなの? 二人で女子会するかサボ君も加えて三人で休憩するか」
「別におれがいたって構わねェよな」
「え、うーん……どっちでも――」

 どっちでもいいと答えようとしたのだが、言い終える前に「どっちでもいいはナシ」と二人から念を押されて思わず口を噤んだ。三人が同時に休憩できる貴重な時間なのには途方に暮れる。
 そうして気づけばサボが移動してきての左隣から詰め寄ってくるので、たまらず反対側へ逃げようとしたところ、右側からコアラの例のかわいい頬を膨らませた顔が近づいてきた。挟まれて逃げ場がなくなった末に――

「わ、私もう仕事に戻るっ……!」

 二人を押しのけて、は振り返らずに通信室へ一目散に走った。

2023/02/25
たし恋見てみたいエピvol.31
コアラちゃんと女子トーク中に闖入者