そろそろ我慢も限界

 サボが任務で忙しいことがあるのはもちろんだが、通信部で手伝っているまでもが忙しいのは非常に珍しいことだった。人手が足りないらしく、彼女も遅くまで作業している日が続いていた。くたくたになってサボの部屋に来ることもあれば、こちらから彼女の部屋に行くこともある。忙しさに慣れている自分からすればなんてことないことでも、彼女からしてみると大変なようで、風呂から上がってすぐ寝てしまうことが多い。
 隣でスヤスヤと小さな寝息を立てて眠るを見る。少しだけ開いた唇が何とも言えない。別に誘っているわけでもないのに自然と吸い寄せられてしまうのは、もはや反射的なことだった。

「あーくそっ……隣にいるってのに手が出せねェのは拷問だな」

 ぼやいてから煩悩をなんとか追いやろうと仕事のことを考える。明日は報告会議が一件、書類仕事、午後には訓練がある。それからーーダメだ。集中できねェ。
 サボが使用する部屋のベッドは成人男性が一人で眠るには申し分ない大きさだが、大人が二人眠るには若干窮屈に感じなくもない。幸いなことにが小さいおかげでどうにかなっているものの、どうしたって二人の体は密着せざるを得なくなる。そうなると、もうサボの思考回路はめちゃくちゃだった。今すぐ触れたいし、キスしたいし、その柔肌に吸いつきたい。こんな近くに好きな女が無防備に寝ているのに、何もできないというのは生殺しだった。
 実はサボの左腕は彼女の枕代わりになっている。そっと抜き取ることもできなくはないだろうが、気持ちよさそうに眠る彼女の睡眠を邪魔することはしたくなかった。

「大体なんでこんな際どいの着てんだよ。谷間が見えてるじゃねェか」

 季節も関係あるだろう。の寝間着は肩が出ていて胸元も心許ない、布面積が激しく狭いものだった。横向きで寝ているせいで、しっかり谷間が見えている。かわいいし、似合っているが手を出せない状態の今はただ憎らしいだけだ。
 の中途半端に開いている下唇に、サボは右手の親指あてがう。柔らかいそこを、感触を確かめるように往復する。空調のせいで少しかさついているだろうか。唇から指を滑らせて頬に触れる。肌を重ね合わせているといつも思うが、彼女の体はマシュマロみたいに柔らかい。食べてしまいたいという欲望は、だから何もおかしなことではなく、食むと本当に甘くて柔らかいのだ。

「散々おれに我慢させた分、覚悟しろよな」

 反応がないことはもちろんわかっていて、サボはに向かってそう呟いた。
 深いため息を吐いてから目を閉じて、煩悩を追いやるように羊の数を数える。無意味だと知りながら、あとはもう体が自然に眠くなるのを待つしかなかった。

2023/05/13
たし恋ex100作品記念