本物のほうがいいに決まってる

 の部屋で見つけた、自分の顔に似せたぬいぐるみがなんとも言えない表情で正面を見ている。商品名は正確に言うとクッションらしいのだが、ぬいぐるみの類いと同じだろう。

「よくわかんねェけど、まあ似てるといえば似てるのか」
「特徴が出てるよ! この前買い物してるときに見つけてね、かわいくて即買いした」
「……」

 熱弁する彼女の勢いに圧倒されつつ、ベッドに我が物顔で鎮座する自分そっくりのぬいぐるみに、サボは複雑な心境を抱いた。
 最近仕事が立て込んでなかなか会えない状況が続いていた矢先のこと。ようやく触れられると一週間ぶりに彼女の部屋へ来たとき、見かけないモノが目に入ってサボはその正体を問いかけた。まさか自分がこんな商品になっているとは、不思議な感覚を覚える。「よくぞ気づいてくれた」といったふうに語りだした彼女の目が輝いていて、どうやら聞いてほしかったらしい。かわいいでしょ、と嬉々として話すお前がかわいいんだがというベタな返しはしないでおく。
 ベッドから例のぬいぐるみを持ち上げ胸の前で抱える。「どう?」と聞いてくるので、サボは答えに窮した。どうと聞かれても、自分そっくりなぬいぐるみを前になんて答えるのが正解なのかわからない。
 これがおれ、なのか……?

「任務でサボがいないときも、この子がいれば寂しくないかも」と、頬を擦り寄せて愛おしそうに見つめるにサボの表情が曇りはじめる。本当にかわいい、今日も一緒に寝ようね。彼女からそんなふうに言われているぬいぐるみに、なぜか激しい嫉妬を覚えた。
 なるほど、この前ぬいぐるみごときにかわいらしい嫉妬をしていると半ばからかいの気持ちで見ていたが、実際目の前でこの光景を見せられるとたまったもんじゃない。自分がいない間にぬいぐるみが代わりを務め、彼女の寂しさを紛らわすのかと思うと複雑だった。

「そんなにかわいいか?」
「え?」
「今はホンモノがここにいるってのに、さっきからそいつのことばっかりかわいいかわいいって言いやがって」
「えっと、その……」
本物(おれ)のほうがかわいいんじゃなかったのか?」

 の手中からぬいぐるみを取り上げてにじり寄る。意地悪な質問をしている自覚はあったが、面白くないものは仕方ない。
 以前、彼女から「かわいい」と言われて嬉しくないと突っぱねたことが何度かある。けど、ここにきて自分に似せたただのぬいぐるみに「かわいい」という称号が与えられるのは気に食わなかった。

「あの、もしかして、拗ねてる……?」
「そうだって言ったらどうする」

 が「え」とか「それは」とか、言葉が続かずに口をパクパクさせて困惑する。どうすればいいか本気で困っているようだ。
 サボは取り上げたぬいぐるみに視線を移してまじまじとその顔を見つめた。確かにかわいいんだろうが、やはりぬいぐるみに自分の代わりが務まるとは思えない。

「よく考えてみろ。お前の寂しさを埋めてやれるのは誰なのか」

 サボが仕事で忙しくしていたということは、同時にもまたサボに会えなかったということになる。自惚れなどではなく彼女も会いたくて仕方なかったことは、こんなぬいぐるみを買ったことを思えばわかる。
 今日も一緒に寝ようね? 冗談じゃない。今夜からは本物(おれ)を抱いて寝ればいい。

2023/05/27
ぬいぐるみに嫉妬するサボくん