嫉妬注意報、発令中

「ねえフレイヤ見てよこれ! かっこいいと思わない?」
「どれどれ? わっ、本当だ。どうしたのこれ」

 何やらフレイヤとコアラが盛り上がっている。ちらりと二人に目を向けたサボは、けれど興味ないふりをして再び新聞に視線を戻してからコーヒーに手をつける――が、冷めてしまったので新しく注ぎ直そうかと考えてから思いとどまった。いま席を立てば、話の内容がわからなくなってしまう。
 昼食時間の食堂内は人の行き来が多く賑わっていた。テーブルのあちこちでグループができ、仲間たちが思い思いに過ごしている。サボもまた昼食をとるため二十分ほど前に食堂へ来たのだが、探していた人物が先客とすでに歓談していたので仕方なくその近くに座った。フレイヤもコアラもこちらの存在に気づいて声をかけてくれたはいいものの、自分のわからないファッションやコスメ、スイーツの話題で盛り上がりはじめたのでまったく輪の中に入れず、黙々と口を動かしながら手持ち無沙汰に誰かが置き忘れた新聞を広げて時間を潰していたところだった。
 二人の話題はコアラの持つ雑誌の記事に移り、またよく知らないどこかの国の話をはじめた。しかし聞き捨てならないのは「かっこいい」という単語。興味がないなんていうのは専ら嘘であり、気になって仕方がないサボは聞き耳を立てながら相変わらず新聞を読むふりをしつづける。

「最近ね、庶民派プリンスって言って有名らしいの。偉ぶらない庶民の気持ちを理解した王子で国民から慕われているみたい」
「そうなんだ。しかも二十歳なんて私より歳下なのにすごいしっかりしてそう」ピキ。自身のこめかみに筋が入る音が聞こえる。
「普通だったらあり得ないけどほら! モデルの仕事もしてて、カジュアルな服装も似合うんだよ」
「へえ、素敵だね。こんな親しみやすい王子もいるんだ」ピキピキ。また音が鳴る。

 サボは手に持っていた新聞を思わずぐしゃっと握りつぶしてしまい、はす向かいで食事をしていた部下に「うわっ、なにしてんすか」と驚かれたが答える余裕はなかった。
 胸中が騒がしく、苛々が募る。握ったせいで破れた新聞の切れ端が無残にテーブルの上に転がった。気持ちを落ち着かせようとしても今の会話が頭の中で繰り返し再生される。フレイヤの口からほかの男を賞賛する言葉がこんなにも腹立たしいなんて初めて経験する。
 そう思ったら、サボの身体は勝手に動いていた。

「わっ――」

 カップを持っていた手が滑り、中身のコーヒーがぶちまけられたと同時に自身のシャツまで汚れた。
 短い叫びに二人がどうしたのかとこちらに視線が向けられ、フレイヤに至っては「なにしてるのサボ、シミになっちゃう」と立ち上がって腕を引っ張った。

「ごめんねコアラちゃん。話の続きはあとでもいい?」
「あー……っと、うん。フレイヤはサボ君のシャツの汚れをとってあげて」ちらっと一度こちらに目をやってからフレイヤに答える。今の視線だけですべてを悟ったようだ。
「行こう」

 掴んだ腕を引っ張るフレイヤの後ろにくっついて、サボは食堂をあとにした。


*


 フレイヤの両腕を後ろから逃げられないように掴んで鉄扉に押しつけたサボは項に唇を寄せてきつく吸った。少し前に散々キスしたおかげで湿っていた唇は、いとも簡単に彼女の肌へ所有印を残すことに成功する。そうして離れた唇は再び別の場所へ吸いつき、舌を這わせて彼女の肌を堪能していく。
 あのあと、親切にもシャツについてしまった(本当はわざとこぼした)コーヒーのシミをとろうと洗濯場へ連れてきてくれた彼女に言われるままシャツを脱ぎ、一生懸命しみ抜きする姿を見つめながら、あとは洗濯するだけとなったところで彼女に口づけた。当然、訳の分からない彼女は抵抗を見せたが、許すまいとサボは腰を抱き寄せて離れられないようにして口腔内を余すことなく犯した。
 ようやく解放されたフレイヤが危険を察知したのか扉に向かって逃げようとしたので、すぐに捕まえてそのまま扉と自分の身体とで彼女の逃げ道を塞ぐ。

「で? その王子はおれよりすげェ奴なのか?」
「そん、な……ッ」

 我ながら馬鹿みたいな質問だと思いつつ、我慢がならなかったサボはフレイヤから直接否定の言葉を聞きたくてつい口に出してしまった。

「モデルをやってるとか言ってたよな。随分と庶民の生活に慣れてる素敵な王子じゃねェか」
「比べるようなことじゃ……んンっ」わかってるよそんなこと。けど、お前が悪ィんだぞ。おれの前でほかの野郎を褒めるから――
「答えろフレイヤ。そいつはおれより強ェのか?」

 こんなことを聞いてどうするのだろう。一国の王子と自分、どちらが強いなんて聞くまでもない。わかりきった質問に、けれどこちらに翻弄されてそれどころではないフレイヤは律儀に答えてくれる。

「そんなの、サボに決まってるよ……」

 その言葉にサボの口角は自然と上がる。わかっていても本人の口から聞くのとじゃ意味が違う。

 安心したかった。フレイヤの中で一番の男は自分だということを。こんなくだらない質問、聞かなくたって彼女はいつでもサボに愛を示してくれているのに。
 項への愛撫をいったん止めて、右手を服の裾から中へ侵入させる。指で彼女の背中を撫でた途端、フレイヤがわかりやすく喘いだ。

「――ッ」

 身動きが取れないのをいいことに、サボはフレイヤの弱点をひたすら責め立て、段々と溺れていく彼女の姿を見ながら自らの嫉妬を鎮めようとした。

2024/09/01
他国の王子を褒めたら嫉妬したサボくん