とある町のガールズバーに、サボは渋々ながら部下二人をつれて来ていた。ただのガールズバーではなく、光沢のある黒いバニーガールの衣装をまとい、頭にウサギの耳を模したカチューシャとふわふわな丸い尻尾をつけて、いかにもそれっぽさを表現した男の欲を満たすためにあるバーだ。
十数人といるバニーガールの恰好をした女の中から気に入ったキャストを選んで、半円形のソファで酒を飲みながら会話に花を咲かせるというのがバーの楽しみ方だ。こうした店はどこの島にもあるものだが、たいていの場合、バニーガールへのタッチは禁止されている。後々問題が起こるのを防ぐためだ。
ところが、海賊といった無法者が集まるところでは彼女たちへのお触りも許されているというのがほかと違う特徴的な点である。もちろんタッチが許されているだけでそれ以上の行為は御法度だが、無法地帯でルールが破られたとしても店は何も言わない。どうしてこんな場所へ来ることになったのかと言えばもちろん潜入調査のためだが、部下二人は店に来た途端好みの女を見つけたらしく、嬉々としてソファ席へ行ってしまった。あいつら、任務だということを忘れてなければいいが……。
ため息をこぼしたところで、ボーイの恰好をした男がサボの前へやってきた。今の自分は革命軍の参謀総長とはわからない身なりをしているので、店員も人の好い笑顔で「好みの子は見つかりましたか」と問いかけてくる。
「いや、おれは別に――」と、途中まで答えてからこんな店へ来ておいて「そういうつもりじゃない」と言うのはおかしいことに気づいて口ごもる。
その態度をボーイは"こういう場所に初めて来た初心な客"だと判断したのか、「そうしましたら今日付けで入った新しい子はいかがでしょう?」などと耳打ちしてきた。
「手慣れたウサギが多い中、非常に初々しい反応で人気が高く、先ほどからひっきりなしにあちこちのテーブルで呼ばれています」
「へェ」
大して興味ない返事をして、サボはその新しい女がいるというテーブルに視線を向けた。初々しいとは言っても、所詮こうした店で働こうというのだから異性の落とし方くらい心得ているだろう。それに、初々しい態度だってもしかしたら演技かもしれない。
しかし、その新しいキャストの姿を捉えた瞬間サボは驚愕する。露出の高いバニーガールの恰好をして男に愛嬌を振りまき、腰を抱かれている女はサボがよく知る人物だったからだ。
「フレイヤ……」
「あれ、ご存知でしたか。おっしゃる通り、彼女が今日付けで配属された新しいバニーガールのフレイヤでございます」
思わず、名前を口に出してしまったが、どうやら彼女は本名で堂々と接待をしているらしい。どういう経緯で彼女がこんなことをしているのか知らなかったが、これは灸を据えておく必要があるようだ。誰の許可を得て身体を自分以外の男に触らせているのだろう。見ているだけで虫唾が走る。
「……確かに随分と可愛いウサギが紛れ込んでるみてェだな。金は出すよ、彼女を呼んでくれるか。あと奥の部屋を使わせてくれ」
頭は至極冷静で、けれど体の内側から嫉妬の炎がメラメラと燃え上がりそうだった。
かしこまりました、と恭しく頭を下げたボーイがフレイヤのいるテーブルへ向かっていくのを見届けながら、さて彼女にどうわからせやろうかとサボは思案した。
*
奥の部屋はいわゆるVIPルームと呼ばれる部屋で、相応の金額を払うか、もしくはオーナーと懇意にしている客以外は使用できないことになっている。同じソファでも高級そうなふかふかの生地のそれに、いくらするかわからない大理石のテーブル、その上には高そうなワインのボトルが何本も置かれ、これまた高そうなグラスが二つ。サボは酒には一切手をつけずに、彼女が現れるのを待った。
そもそもここへ潜入することになった理由は、この店が人身売買の仲介業者になっていると耳にしたからだ。表向きはただのガールズバーだが、裏でオーナーが目をつけた女が専用の港を介して海外へ売り飛ばされていることはすでに調査済みである。しかし、証拠がなく数年間ずっと摘発ができずに頭を悩ませていたのだが、偶然売り飛ばされそうになった女を仲間が助けたことで情報が集まり、店へ潜入することが決まった次第だ。
フレイヤがバニーガールとして接待するなど、だからサボは寝耳に水である。会議に彼女は参加していないし、今回の潜入調査に彼女が同行することも聞いていない。もしそんな提案をされたら却下することが目に見えているので秘密にしていたのかもしれないが、それはそれで問題だ。
「失礼いたします。お待たせいたしました、本日担当しますフレイヤと申します。よろしくお願します――ッ」
しばらくして重たそうなワインレッドのカーテンの奥からバニーガールの恰好をしたフレイヤが現れ、こちらに向かって深々と挨拶をしたが、最後の言葉を口にした直後にひゅっと息を呑んだのがわかった。顔を上げた瞬間、相手の客の顔をようやく目にしたからだろう。まさか、これから相手をするのが自分の恋人だとは彼女も想像していなかったに違いない。
しかし、付き添ってきたボーイが小声で注意をすると慌ててこちらに目線を戻してすみませんと謝ってきた。自分とフレイヤとの間にある妙な空気に気づかないボーイは「何か御用がありましたらそちらのベルでお呼びください。それでは失礼いたします」と、軽い会釈をしてカーテンの奥に戻っていく。
置いていかれた子ウサギが親に救いを求めるような顔をボーイに向けていたフレイヤに、サボは「いつまで突っ立ってるんだ。お前の目の前にいるのは客だぞ」と少し厳しめに言う。ビクッと肩を揺らした彼女が戸惑いながらソファに座る自分の隣へ腰を下ろした。
「そうじゃない」
「え?」
「ここに座れ」
指で自身の膝の上を示す。これが「いつものこと」であれば、優しく彼女に触れてキスをして少しずつ身体を暴いていくところだが、あいにくと今の自分は不機嫌なのでそれを隠すことなくフレイヤに命ずる。それ以前に、今は恋人ではなく客とキャスト。ここでは自由にバニーガールに触れていいので、接待の仕方も客次第というわけだ。
彼女がソファに片膝をつきながら、恐る恐る膝の上に乗っかってくる。見てくれと言わんばかりに、胸の谷間が強調されたバニースーツはカップに滑り止めがあるのか、かろうじて見えないが下心のある人間であれば、簡単に横から手が入れられそうなデザインだ。
遠慮がちに腰を下ろしたフレイヤをじっと見つめて、この可愛いウサギをどう調教しようかと考える。彼女に対して下心のある自分がこうした接待を思いつくのだから、ほかの男も同じように膝の上に乗せてあちこち触った可能性があると思うと今にも嫉妬をぶつけてしまいそうで、けれど怒りに身を任せるのは得策ではないこともまたわかっていた。
ここはゆっくり、じっくり彼女の身体にわからせるのがいい。VIPルームでの接待は二時間。それだけあればウサギの躾は可能だし、時間が足らなくても調査が終われば連れて帰っていくらでもできる。
「フレイヤは猫もウサギも似合うな」
「……ッ」
「けど、誰彼構わず尻尾を振るのは見過ごせねェよな」
網タイツの中に指を突っ込んで柔い肉を撫でた。たちまち甘い吐息を漏らしたフレイヤがきゅっと唇を噛んでこちらに何かを訴えかけてくる。
「そんなこと、」
「してねェって? ここはそういう仕事をする場所だろ」
太腿の付け根まで指を滑らせてさわさわとくすぐるように触れる。この程度じゃ気持ちいいというよりむずがゆさを覚えるはず。身体を震わせながらフレイヤが必死に口を開く。
「でもっ、私そんなつもりじゃ……」
「フレイヤがそうじゃなくても相手はわからねェって話をしてるんだ。現にさっきの客はお前をそういう目で見てたよ。自分で志願したんだろうが、おれに黙ってたってことは少なからず後ろめたさはあったわけだ」
「んっ……ごめ、」
「お前が協力的なのは嬉しいよ。けど、こういう危ねェ場所に乗り込むのは看過できない。お前に触れていいのはおれだけのはずだろ」
今度は胸の下あたりに手をあてて、そのままゆっくり膨らみをのぼっていく。改めてバニースーツを見て、上手く着こなしたものだと感心する。ただでさえ体つきがいいのに、いつも以上にバストが大きく見えるのはきっと服の着方のせいだろう。自分が来店するまでに一体何人の男を誘惑したのか。
サボはまた嫉妬を覚えて、反対側の手を背中に這わす。肩甲骨がわかるほど大きく開いたそこを撫でてフレイヤの弱点を責める。くすぐるように指を中央から首の裏まで自由に這いずり回るように動かせば、彼女の身体は自然と前傾姿勢になり、こっちに胸を押しつけてくる。
「っ、さぼ、せな、か……だめっ」
見上げてくるフレイヤの頬が赤らんでいた。実に煽情的で、押しつけられている豊かな胸も魅力的だが、真っ先にサボがしたいことは上書きだ。「おれが来るまでにどこを触らせたのか白状してもらおうか」火照った彼女の唇を奪ってキスをする。
いろんな客がいる前で下手なお触りはできないだろうが、それでも彼女の身体の中で自分以外の男が触れていい場所など一つもない。サボは彼女の身体を抱え直してスーツの上から下腹部をやんわり撫でる。
「上書きついでにお前が誰の女なのかわからせてやるよ」
「あ、待っ――」
フレイヤの言葉を待たずに、サボはふたたび彼女の唇に自分のを重ねた。
2025/08/02
バニーの日2025