輝ける乙女たち

 それはフレッドから見せられた雑誌から始まった。
『必見 ゆるふわ女子大解剖第二弾!』
 なんていうでかでかと書かれた宣伝文句が目に入り、思わずサボは書類を放って彼から奪うように雑誌を取ると、そこに写る人物をじろじろ見つめた。
 表紙には二人の女が写っていた。一人はオレンジに近い茶髪の女で、部下であるコアラ。もう一人は長い髪をゆるく巻いた、サボがこの世で最も愛する女であるフレイヤ。仲良く並んだ二人が見たこともない服を着てモデルさながらのポーズをとっている。いや、これは実際モデルなのだろう。表紙だけ飾ったのかと思えば、フレッドから「ちゃんと特集組まれてますよ」などと要らぬ情報まで教えられて、ついついじっくり読んでしまった。
 ゆるふわ女子。訳のわからない単語を出されて戸惑いつつ、どうやら二人がファッションモデルを頼まれたらしいことは理解した。彼の話では二人が気に入っているブランドのショップ店員から直接声をかけられたそうだ。すでに雑誌が出回っているということは、撮影されたのはだいぶ前だろう。サボは眉をひそめて、目の前に立つコアラに問いかける。

「おれはこんな話聞いてねェ」
「言ってないもん」

 フレイヤたちが掲載されたページを開いて見せたサボは、少し乱暴に机の上に置いてコアラに文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが、逆に開き直った返しをされて返す言葉を失った。「言ったらサボ君、写真のデータを寄こせだの今すぐ発行を中止しろだのいろいろ言ってくるでしょ」まるでこちらの心を読んでいるかのような発言にますます言葉に詰まる。
 実際、雑誌の特集されたフレイヤの姿を見て、サボは今すぐ雑誌の発行所に発売を中止するよう求めようとしたくらいだ。もちろんフレッドに止められたが。例のブランドの新作か何か知らないが、肌の露出が多いのと化粧がいつもと違う――なんだ、この目尻。誘ってんのか? あと唇もツヤツヤさせすぎで納得できない。これじゃあ食べてくれって言ってるようなものだ。
 と、あげたらキリがないのでいったんすべてをのみ込んでコアラに抗議していたところだった。

「でもフレイヤだって結構ノリノリだったよ。それに可愛いでしょ?」
「……可愛いから問題あるんだよ。この雑誌がどこの地域で売られてるのか知らねェけど、不特定多数の奴が見るってことだろ。そんなの許せるわけがない」
「またそういうこと言って……可愛いんだから出し惜しみするほうがもったいないでしょ!」
「うるせェ。おれのフレイヤだ、どこの誰かもわからねェ奴に晒してたまるか」

 突っぱねて返した自分に、コアラは呆れた視線を向けて「はいはい、わかりました」という呆れた言葉で軽くあしらった。そのまま執務室を出ていこうとする彼女が、しかし思い出したように「あ」と呟いて振り返る。
「明日の午後はフレイヤとミリと三人でショッピングだから邪魔しないでよね」
 そう付け足してこちらに釘を刺した。返事をする前に扉は閉まり、ひとり残されたサボは彼女が出ていった扉を唖然としたまましばらく見つめていた。


*


「ねえ、このワンピースいいんじゃない? フレイヤに似合うと思う」
「本当? じゃあ試着してみようかな」
「私はこのリボンのブラウスにしようかなって思ってる」
「うん、コアラちゃんにぴったりだよ! ね、ミリちゃん」

 突然話を振られて我に返ったミリは慌てて「は、はいっ、もちろん似合ってます!」と勢い込んで返事したために、逆に二人を驚かせてしまった。居たたまれなくなり、「私、あっちのパンツエリアを見てきますッ」恥ずかしさを誤魔化すように二人がいる場所からいったん離れることにする。
 同じフロア内にあるパンツが並んだコーナーに移動し、商品を順番に見ていく。フレイヤさんとコアラさんにちらっと視線を戻すと、再び楽しそうに服を選び合う姿が見てとれたので内心ほっとする。よかった。ぼうっと二人に見惚れてたなんて、とてもじゃないが言えない。
 午前の間に片づけるべきすべての仕事を終えたミリは、二人からショッピングに誘われて大きなブランド店に来ていた。どうやら、ファッションモデルとして掲載された今号の売り上げが非常に好調で評判もいいことから、該当ブランドから謝礼として割引券をもらったらしく、つい三日前、一緒に行かないかと誘われたのだ。
 雑誌の件はフレッドから聞いてもちろん知っていた(自分よりトレンドに詳しいフレッドはファッションだったり、食べ物だったり、あらゆるジャンルに精通している)。フレイヤさんとコアラさんが特に気に入っているブランドから直接依頼されたとかで、雑誌も実際に見せてもらったがとにかく可愛かった。身長が近い二人はまるで仲のいい姉妹のように写っていて、ミリはひとりじっくりと特集を眺めてしまった。こんな可愛い二人と自分が一緒に買い物だなんて少し恐れ多い気もするけれど。
 少し離れたところから、もう一度フレイヤさんとコアラさんを見つめる。
 フレイヤさんが試着しようとしているのは夏らしい白を基調にしたストラップワンピースだ。花が水墨画みたいに描かれていて幻想的であるのと、コルセットがついているらしく引き締まった印象を与える。
 コアラさんは胸元のリボンが特徴的なプリーツブラウスを合わせている。普段から着用しているフリルのブラウスとはまた違って可愛らしさより上品な感じがする。
 二人はほかにも気になる商品を手に取ってどうしようと悩んでいた。全部欲しいけど、そんなにたくさん買えないねと、迷っているときも楽しそうなのは女性の買い物風景でよくあることだ。ここに総長がいれば、「まだかかるのか」とか「腹減った」とかこぼしそうだな。そんな想像をしてクスッと笑いがもれてしまいそうになったときだった。

「ねえ、あの二人ってもしかして今月号に載ってた女の子たちじゃない!?」
「えっ、あ、そうじゃん! 普段から仲いいんだ〜実物はもっと可愛いね」
「雑誌に載ってる服を買いに来ただけなのになんか得した気分」

 近くでそんな会話が聞こえたので、ミリは声のするほうに視線をずらした。二人組の若い女性客で、ひそひそ話しながらも興奮を抑えられないといった様子が伝わる。フレイヤさんたちのことを言っているのは明白だった。
 実を言うと、このブランドは"偉大なる航路"の前半の海にしか展開していないので四つの海や新世界に行っても出会えないブランドなのだが、十代後半〜四十代とターゲット層は幅広く人気が高いことで有名で、モモイロ島からすぐ近くの島に一号店を構えており、大勢の女性客が来るのだ。今日は空いているほうであり、フレイヤさんたち曰くいつもはもっと混み合っているという。
 若い二人組も常連客なのだろう、雑誌を片手に欲しい服をチェックしているらしい。ちょうどページを開いた状態で折っているので反対側が見えたのだが、フレイヤさんたちの記事だというのはすぐにわかった。モデルとなった二人のことを「可愛い」「仲がいい」と絶賛してちらちら見てしまう気持ちがミリには共感できてしまい、胸中では彼女たちに合わせてですよねと繰り返し頷く。
 ミリはショッピングに来たことも忘れて、彼女たちの有名人に会ってしまったような興奮に自分も似たような感覚を持っていることに気づいて可笑しく思った。

「ミリ〜!」
「ミリちゃん!」

 と、前方から自分を呼ぶ二人の声が聞こえた。コアラさんとフレイヤさんだった。試着する服が決まったのか、彼女たちの手にはたくさんのハンガーが握られている。ミリは急いで二人に駆け寄っていく。
 近くにいた例の若い二人組が「えっ」という驚く声とともに自分を見ているのがわかる。自分だけ可愛いモデルたちとショッピングだなんて優遇されているみたいでなんだか申し訳なく思うと同時に、彼女たちと同じ場所で生活していることに少しだけ優越感を抱いてしまったのは秘密だ。

2024/09/15
ふぉろわ~さんリクエストより「雑誌モデルを頼まれたコアラちゃんとフレイヤ