やっぱりふたりがいいね

 出会ってもう7年目になるし社会人になった今、学生の時のような青春ぽさを求めてるわけでもない、私も翼も。それでもやっぱり『誕生日』って特別なものだと思う。だって、その人がこの世に生まれてきたという証であって、決して歳を取るだけなんてそんな簡単に片づけたくない。

 って、こんな話を翼にしたら「お前頭大丈夫?」とか言われそうだけど。でも本音じゃ確かにそう思ってるんだから、私は相当彼にハマっているに違いない。彼が中学卒業して海外に行ってから余計にそれを実感することが多くなった、と思う。当たり前に隣にいた人が今じゃ滅多に逢うことさえできないんだから、なんというか私の中で彼の存在はそれくらい大きいものになってたのを感じたのだ。
 だから、というわけじゃないけど普段会えない分『誕生日』は盛大に祝おう、と決めていた。ちょうど、久々に帰国する予定があると本人から聞いていたし、多分翼もそのつもりで戻ってくると思う。どうせなら彼の喜ぶ顔を見たいでしょ?だから気合入れて今、私はキッチン前で大忙し。高級ホテルのレストランのようなお洒落なおもてなしは出来なくても、愛があればいいのよ、なんてね。

 飛行機が予定通りなら、今夜7時過ぎにここに着くはずだった。そして翼はそれを裏切ることなく7時きっかりにインターフォンを鳴らしてくれたようだ。

「ちょっと待って、今開ける」

 聞こえてるのかわからないけど、そう呟いて。ドアの向こうにいる翼はどんな顔してるんだろう、とか考えながら玄関までを歩く。半年ぶりに会うんだから、少しくらい顔がゆるんでいてもおかしくない、はず。

 ……って思ってたのに、

、おまえ……太った?」

 扉が開いたと同時に相変わらずの毒舌っぷりを見事に発揮した彼はキャリーケースを玄関脇に置いて、あたかも自分の家のように慣れた手つきで靴をしまい込んだ。

ほんといつも通りすぎてっていうか久々に会う彼女に対して「太った?」ってどういうことよ。

「あのー翼さん?酷過ぎやしません?」

こそ、久しぶりに会うのにすっぴんなんて良い度胸してるじゃん」

 なっ、いつもは別に何も言わないくせに。翼ってばほんと可愛くない!

 不貞腐れたように見れば、今度は突然「ぷっ」と吹き出して笑うから、もう阿呆らしくなってこっちも笑ってしまった。やっぱりこの雰囲気は彼としか作り出せない。

「おかえり、翼」

「うん、ただいま」

 ごく普通の会話なのにとてもいとしくて。胸がきゅーっと萎んでいくみたいに苦しくなる。でもつらいとかそういうことではなくて、つまり。その苦しみさえも愛おしいのだ。

「今日ね、とっておきのワイン用意したよ」

「僕の口に合うの?」

「またすぐそういうこと言う!飲んで確かめてよ」

「ん。」

 翼は出会ったときから発言に容赦ないし、皮肉屋だから言うことも鋭い。これまで翼のそういうところに泣かされてきた女の子たちを私は知っている。

 彼女の私が言うのも変だけど、翼は容姿もいいし、頭の回転が早い。転校してきたときの女子のざわつきを今でも覚えている。告白されてるのも何回か見た。私と付き合ってからもそれは絶えなかったけど、決まって彼の一言はどん底に突き落とすようなものだと思う、慣れていない人には、ね。

「翼と言い合いできる女って私だけだと思う」

「偶然。僕も同じこと思ったよ」

「じゃなきゃこんな続いてないか」

「このテンポで話せるのはね、お前だけだよ」

「ほんとマシンガントークに打ちのめされた女子が何人いたことか……」

 とか言いつつ、本当は翼本人からのお墨付きでご満悦だったりするわけだから私って腹黒い。優越感に浸りながら隣にいる彼をそっと見やって、一緒にこの日を過ごせることに幸せを感じる。といっても今日はもう残り数時間だけど。

 でも、来年も再来年もこうやってお祝いができたらいいなんて。

「つばさ、」

「なに」

「誕生日、おめでとう」

「さんきゅ」

 静かにキスをして、笑い合う。やっぱり、ふたりでいるのがいちばん。

 翼、生まれてきてくれてありがとう。