ほてった頬の
高校1年のお話。
登場キャラ:椎名翼(しいな つばさ)、井上直樹(いのうえ なおき)、黒川柾輝(くろかわ まさき)、畑五助(はた ごすけ)、畑六助(はた ろくすけ)
名前のみ:西園寺玲(さいおんじ あきら)、藤村成樹(ふじむら しげき)
中学卒業後、関西の高校へ入学した直樹が東京に遊びに来るっていう高校1年の冬休み。9か月ぶりに飛葉中のメンバーが集合し、俺の家で鍋を囲むことになった(は家族と旅行中で来れないってことで野郎だけの集まりだけど)。
俺と柾輝とが同じ高校、五助六助はそれぞれ別の高校へ進学したけど、なんだかんだ休日に予定が合えば集まったりしてる。けど直樹は中学のとき、関西の選抜チームに選ばれたこともあってそのまま向こうに残ることになって。藤村がいたっていうのもあるだろうし、元々出身がそっちだからね。
……にしてももいないし玲も実家帰ってるし、女っ気が微塵もないこの光景。年末に何がさみしくてこんな男だけで集まってんだかって思いつつ、こいつらといるのはやっぱり楽しい。が羨ましがってたから、後で写メでも送りつけてやろなんて考えていた。
「いや〜久々やなあ」
「んなこと言って、お前結構な頻度で電話してきただろ」
関西に戻って益々キャラを濃くした直樹はいちいち大げさっていうか、煩いのは健在。俺にも電話来たし、柾輝たちもどうやら同じような目にあってたらしい。
久しぶりに会うはずなのに全然そんな気がしないのはきっとその影響だと思う。
「しゃあないやろ、向こうにはシゲ以外知り合いおらんし。それよりはホンマに来れんのか翼」
「家族と今頃温泉にでも入ってるんじゃないの」
「そりゃ好都合や!」
鍋をつつきながら大いに盛り上がる直樹。何が好都合なのか知らないけど、鍋に箸つっこみながら大声で喋るなっての。どっちかにしろよ、ったく。
すると俺と同じことを思ったんだろう五助が直樹の手をはたく。「いでっ」と声を荒げた直樹がすまんとひとまず箸を置いたのを見て、改めて俺は聞いた。
「で、何が好都合なわけ」
「お、そうやそうや。翼やっとつきおうてるんやて?」
「……」
「いや、俺じゃねーよ」
「俺も違う」
無言で柾輝たちの方を睨み付けると、すぐさま首を振って違うと口をそろえた。
となると……
「アイツが言ってた?」
「まぁな。相当嬉しがっとるであれは」
どうやら夏休み中にが直樹へ電話をかけていたらしい。俺に何も言わなかったあたり気を遣ってくれたのかもしれない。
そういうのあんま好きじゃないからさ。
けど、今日こうやって切り出したってんだからこれで終わるわけないよね。
「つまり、俺との話を聞きたいわけ?」
俺の返答が意外だったのか、少し面食らった顔でこっちを見ている。多分俺が絶対に話さないとでも思ってたんだろうけど、まあたまにはいいんじゃないの。どっちかっていうとが恥ずかしがる話だし?
本人は優雅に温泉旅行を楽しんでるわけだからここで話す分には問題ない。後でからかうネタにされるであろうことは目に見えてるけど、そこは電話で喋った自分を反省しろってことで。
俺はあの時を振り返りながら、直樹たちに今年の夏の話を語りはじめた。
*
あれは確か、夏休み前の定期テストの最終日。
勉強に関して難なくこなせることは高校入学してからも変わらず特別困ることがなかった俺は、それでもテスト勉強から解放されてやっとサッカーに専念できると帰りの支度をしている最中だった。
「椎名くん、ちょっといいかな……」
唐突に掛けられた声はなんともふわふわした可愛らしい俺の周りにはいないタイプだ。その声に顔を上げると、クラスメイト(確か青木って人)が目の前にいた。
「僕に用事?」
「うん、話したいことがあるの」
仕方ない、とは思いつつもせっかくテストが終わったってのにすぐ練習に向かえないのは少しばかり不服だ。けど顔には出さず「いいよ」と答えて、ここじゃ話しづらいからという彼女についていく。
なんとなくその『話』の内容には予想がついていた。中学の頃にも何回かあったし、そのたびに断ってきたけど。みんな俺の何がいいって思ってんだか……
容姿・頭脳・運動神経。確かに自信はある。けど、だからなんだっていうんだ。
俺は思ったことはすぐ口に出す方だし、女だからって優しい言葉をかけてやるつもりもない。それで離れていくのであればそれまでだし。だからこそ、俺にはアイツしかいないって思うんだけど。
「ごめん、俺好きなヤツいんの」
青木さんが俺の何を良いと思ってくれているかはわからない。
だけど、2年前彼女と出会ってから変わらない想いがある。そこはもう理屈じゃ説明できない。
用事を済ませて帰って来た俺に、「相変わらずモテますねえ」と門で待っていたがひやかした。
玲が監督しているクラブチームに俺は選手として、はマネージャーとして所属している。学校が終わったらそのまま向かうために帰りは必然的に一緒になる。
「うるさいよ」
「私なんて告られたこと一度もないってのに」
「は仕方ないんじゃない」
「ちょっと今の暴言!」
他愛もない会話で、笑ったり、怒ったり。一緒にいるのが当たり前、なんて。きっとこの先も飽きないんだろうって思わずにはいられない。
お互い無言になったところでがいよいよ切り出した。
「ねー翼。私たちそろそろ、」
「付き合おうって言ってほしいわけ」
の言葉を遮って言えば、目を見開く彼女が混乱していて。普段、俺と言い合ったり柾輝たちとバカ騒ぎする彼女とは全く違うそれが新鮮で。
答えなんてわかってるだろうに、それでもこういう反応を示すのは彼女が慣れてないだけ。次第に頬の赤が増していく。
「顔赤いよ」
「いや、翼が急に、言うから……」
「変えたいんでしょ。まあ俺もそろそろこの関係にちゃんと名前を付けるべきだとは思うけど」
「なんで」
「が言いかけたんだろ」
「そう、だけど」
「で?付き合うの、付き合わないの」
直接的な言葉はなくてもお互いの気持ちなんてとうに知っていて。だからこそ、今更言う必要は特にないけど。今日で『友達』はおしまい。
付き合うに決まってるでしょ、と怒ってるのか恥ずかしいのかその両方を含んだ声の主が俺を追い抜いてスタスタ歩いていった。
*
話が終わると直樹が「おもろいのう」とつぶやいたから、後で彼女に教えといてやろう。からかわれても怒るなって。
夜が更けて、今度はお決まりのサッカー話で朝まで語り明かした。