助けてください。飢え死にしそうです
絶望の淵に立たされているのだろうか。どうしてこうなったのか心底わからない、という表情ではキッチンの前で茫然と立ち尽くしていた。
昨日、研究室での飲み会に加え、なぜか出くわしてしまった椎名さんとその仲間の方々にも付き合うはめになって、もうなにがなんだかわからない状態だった。一つ覚えていることと言えば、彼らは中学のときからの同級生らしく、今でも交流があって昨日はその集まりだったということである。
あれから、椎名さんにいろいろ(内容はよく覚えてない)言われただが、話していくうちに容姿端麗ということだけでなく、頭のキレる人であることもわかった。ほんの少し、いや結構物事をハッキリ言う性格のぞいては完璧とも言える。
打ち解けたのか何なのか、最終的にはタメ口で話していた。正確に言うと、彼の後輩がタメ口だったから便乗しただけである。
だが、今はそんなことどうでもよかった。
「なぜ、冷蔵庫になにもない!?」
呟いた一言は、自分以外いない部屋の中で虚しく響く。
、昨日は飲み会、一昨日はファミレス、その前は徹夜してあまり覚えていない……絶賛不健康な生活を送っていることに気づいて、ため息をもらす。どうにかしてでも、この状況を打破しなければならない。
そう思って財布を中身を確認するも、すぐに落胆した。、現在の所持金35円。通帳の残高も光熱費などの支払いにより、底が尽いている。そして、次のバイト代が支給されるまであと1日。たった1日ではあるが、死活問題だった。
「マズイ……と、とりあえず誰かに連絡をとるしか」
履歴をたどって、友人に電話をかける。が、取り込み中なのか一向に反応がない。虚しく機械の音が響くだけだった。なんてことだ。他にも何人かに連絡を取ろうかと思ったが、よく考えてみれば定期範囲内に住んでいる知り合いなどその彼女一人だ。
そうこうしている今も、のお腹の虫が鳴っている。昨日の夜だってろくに食べていない。そもそも飲み会に出る料理などたかが知れている。それに、ああいう場はどちらかというと食より酒である。
家にいてもどうしようもないと考えた結果、はひとまず友人にLINEを送り、出かける準備を始めた。最近ツイてないと思っていたが、ここまでくると単に運が悪いで片付けるには納得いかないものがある。
スマホと意味を持たない財布とを持ち、いざ玄関を出ると、隣からタイミングよく声をかけられた。
「あんた大丈夫?」
「へ……?」
「なんか死にそうな顔してるけど」
数時間ぶりの声は、もうだいぶ聞き慣れてしまった。隣とはいえ、よく会うなあと思う。
けれど、これはもしかしなくてもチャンスなのでは。
「あーいや、これはそのですね、事情がありまして……」
「なにそれ。もう敬語は気持ち悪いんだけど」
おい、なんでだよ。ていうか昨日は飲み会のノリみたいなもんでしょうが!
ツッコミを入れずにはいられなく、は思い切り胸の内で叫ぶ。
「あ、そうです、じゃなくてだよね……」
「で?なに困ってんの?」
「っ……」
「今さらそういう遠慮とかいらないから。十分失礼なこと言ってきただろ」
「そ、そうです、けど」
いや、そうかもしれないけど。そういう問題ではない気がする。というか、気にしてたのか。ああ、せっかくのチャンスなのに。言ってしまえばまた醜態を晒すことになる。この人の前では、本当に格好つかないことばかりだ。
どうしようかと悩んでいると、それは唐突に鳴った。
きゅるきゅる。
お腹の虫である。何とも間の抜けた音で恥ずかしい。まさに、『穴があったら入りたい』だ。雰囲気を壊すようなその音に、思わずプッと吹き出した椎名さんが目を細めた。
「あー腹減ってんの?だったらそう言いなよ。飯くらいウチにあるし」
「え……!?」
「なに」
「い、いいの……?」
「だって金ないんだろ?それとも飢え死にしたいわけ?だったら止めないけど」
「いえ、食べさせてください」
これでもかというくらい頭を下げて、は奇跡的にもご飯という名の恵みがある椎名の家へと足を踏み入れることとなった。友人には、こっそり「大丈夫になった」と連絡を入れるのも忘れないようにして。