それは、まるでアレキサンダーのような

 私が勤務するバルティゴ貿易株式会社はその界隈では結構大きく、周りの友人に話せば「すごいね」と言われるほどには利益の多い企業だ。入社して二年目に突入したものの、まだわからないことも多く先輩たちの背中を必死で追いかけている日々。だからといって、仕事は待ってくれないし、頼まれたことはきちんとこなさなければならない。弱音を吐かずにどうにか食らいついているという感じである。
 所属している部署は総務部だが、第二・三事業部が受け持つ商社やメーカーの輸出入に関する書類作成や通関手配など、簡易的に言えば貿易事務だ。もともと語学が得意で、英語はもちろんほかにも中国語とイタリア語を勉強していたこともあって選んだ就職先だった。筆記と三回の面接を経て内定をもらった会社だが、決め手となった理由は実はあまり褒められたものではない。
 バルティゴ貿易は、入社試験前に会社見学をさせてもらえる不思議なところだった。もしかしたら別の業界では多いのかもしれないが、少なくとも私が受けた企業の中で社内の様子を見せてくれたのはここだけだ。とはいえ、仕事をしている様子の一部分を見たからって雰囲気がわかるなどとは思わなかった。実際に入社してみて自分には合わないと愚痴をこぼす先輩の話を聞いたことがあったからだ。
 しかし、私はそのたった数分の会社見学で絶対にバルティゴ貿易に入社すると誓ったのである。見学前の自分が聞いて呆れるだろう。こればっかりは否定できない。だって、本当にそれだけの衝撃的なことがあったのだから。

「主任。××社の商品輸入に関して納品時期の連絡が来ましたが、不在だったので折り返しと伝えています」
「おお悪いな。いつも助かるよ」
「別に。仕事ですから」

 思ったより素っ気ない口調になってしまったが、言われた本人は特に気にした様子はなくニッと笑ってすぐに電話をかけようと受話器を取った。
 事業部フロアの窓側の一角。第三事業部の人たちが作業する場所は、今日もたくさんの人が忙しなく行き交っている。電話にキーボードを叩く音、そして打ち合わせスペースから漏れ聞こえる声。海外とのやり取りが多いため、聞こえる声のほとんどが英語や中国語だ。
 窓側の端から二つ目の席に、その人物は座っている。先ほどの伝言から、すぐに対応してくれるのも彼の仕事の速さがうかがえる一面だ。電話するその姿をしばらく見つめていると、顔に熱が集まっている気がして慌てて視線をそらし自席へ戻った。
 ――今日もなんてかっこいいんだろう、サボさん。
 サボ主任は、私が担当する複数案件のうちの一つを担っている第三事業部の人で、若いのに次期課長と噂されている優秀な人だ。同時に私がバルティゴ貿易に入社する理由になった人でもある。




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