どうかいなくならないで

 だから行くなと言ったのに、彼女は相変わらず自分に盾をつくのが得意――というには語弊があるかもしれないが、少なくとも意地を張っていることはわかる。昔から正義感が強く、弱い者を放っておけない性格ゆえに思うまま突っ走る傾向があるのだ。周りは自分と彼女が似ているというが決定的に違う点があり、それが結果を大きく左右する。
 サボは勝算があった上で敵地へ向かうのに対して、彼女は戦闘を得意としないから力の差というものがある。元々持つ身体能力はどうしたって埋められない。しかし母親を殺された過去を持つ彼女にとって、弱者を助けるのは自然の摂理のように体にしみ込んだ性質だと言ってもいい。だから無茶もするし、突拍子のない行動は時にサボを困らせる。三つ年下とはいえ、かつてサボが慕っていた彼女の父親がじゃじゃ馬と例えていたのはなるほど、言い得て妙だ。
 一週間の任務を終えた部下から帰還の連絡をもらったとき、けれどそこに彼女の声はなかった。

「すみません総長! おれたちが目を離した隙にっ……」

 電伝虫から部下の頭を垂れる姿が想像できてしまい苦笑する。彼が謝るのはお門違いだ。どのみち、きっと彼女は大丈夫だなんだと言い訳して行ってしまっただろうから。
 バルティゴから南へ三千キロ離れた場所にあるエディントン共和国。彼らが任務に行っていた小さな島国であり、最近海賊による襲撃事件でニュースになったところだ。特別大きく取り扱われたわけではなかったが、小さな国は軍事力も低いので対抗手段がない。そこで革命軍から応援という形で彼らが任務にあたったのだ。

「お前らが謝ることねェよ。どうせあいつが勝手に突っ込んでいったんだろ。怪我って言っても大したことないなら気に病むな」
「総長……」

 元気のない応答を最後に、通信を切ったサボは大きくため息をついて天井を仰いだ。やるせない気持ちが押し寄せてくるのをこらえるように歯を強く食いしばる。彼女が行くと意見を曲げないなら、どうして自分が同行しなかったのだろう。そんな詮無いことを考えて、もう一度吐息する。参謀総長は私的な理由で行動するわけにはいかない。




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