バレンタイン進捗模様


※『たしかに恋をしていた』の番外編
** vol.1 **


 ある日の早朝。革命軍本部、廊下。

「あれ、フレイヤさん。朝早いですね、おはようございます」
「おはようございます。今日はコアラちゃんと食堂で約束があって」
「約束……? こんな朝早くからですか?」
「えっと……サボには内緒にしてもらえますか?」
「……?」

*

「……さっきからじろじろ見て、おれの顔に何かついてるか?」
「え、そんなに見てました?」
「見てる。しつけェくらいに」
「すいません、そんなつもりはなくて……」
「何か言いたいことでもあるんじゃねェのか?」
「あーいや……ただ、総長が羨ましいなァって思って」
「羨ましい?」
フレイヤさんに愛されてるじゃないですか。すげー羨ましいです。あんな一途な子」
「お前まさか」
「あー違いますちがいますっ! あれだけ一途に想ってもらえるってのが羨ましいという意味で、フレイヤさんのこと女性として好きとかじゃないですからね!? 怖い顔しないでください」
「じゃあ何なんだよ。ハッキリ言え」
フレイヤさんとの約束なので言えません。でも、来月になればわかるので大丈夫です」
「意味がわからねェ」
「だから今はわからなくていいんです」
「でもお前は知ってんだろ?」
「そりゃあ偶然彼女に会ったので」
「なんでお前が知ってておれがダメなんだよ。納得いかない」
「女性にはいろいろあるんですよ。とにかく総長の不利になるようなことは何もないので心配しないでください」
「……」
「そんな顔しても教えないですからね」


** vol.2 **


フレイヤ
「っ……、サボ……なに?」
「いや、別に用はねェけど、姿が見えたからさ」
「そ、そうなんだ。じゃあ私急いでるからもう行くね」
「あ、おい――って、行っちまった……なんなんだ」

*

「……」
「……」
「……総長。ぶさいくな顔になってます」
「まるで玩具を取り上げられた子供ですね、何かあったんですか」
「まあ大体察しはつきますけど」
「じゃあ聞くな」
「嘘ですって。フレイヤさんと何かありました?」
「……あいつ、おれに隠し事してねェか」
「えっ、あのフレイヤさんが? ないない、あり得ないですって」
「妙にそわそわしてるっつーか、さっきも偶然廊下で見かけたから声をかけたんだが、急いでるとかですぐに行っちまうしよ」
「気にしすぎですよ。それに自分で言ってたじゃないですか、『フレイヤは隠し事ができねェ人間だ』って」
「誰かに強要されてる可能性もあるだろ」
「総長の恋人だって知っててそんなことする奴はいないと思いますけど」
「あーくそっ、気になって集中できねェ……!」


** vol.3 **


 本部、コアラの部屋にて。

「どれもこれも美味しくできたね。みんなに配るのはやっぱりチョコレートにする」
「うん。たくさん作りやすいし、いいと思う」
「……で、フレイヤはサボ君に贈るお菓子は決めたの?」
「え!」

 テーブルの上に置かれた紅茶とお菓子の試作品。バレンタインのために練習しているものだ。
 けれど、サボのために何を作るかはまだ決めていない。

「実はまだ悩んでて……チョコもいいけど、皆さんに贈るなら飽きちゃうかなって」と、フレイヤは続ける。
「まあサボ君はフレイヤからもらえるなら何でも嬉しいと思うよ」
「ありがとう。ただ、贈るお菓子にも意味があってね。そのあたりも考えてから決めようと思う」

 フレイヤの言葉にコアラが笑って頷いてくれた。

「あ、そういえばサボ君が機嫌悪いって話は聞いた?」
「あーえっと……そうみたい、だね。隠し事してるって思われてるみたい」
「驚かせようとしてるのが仇になってる感じだね」
「どうしよう……やっぱり事前に言ったほうがいいのかな」
「なに言ってるの! せっかくここまで隠してきたんだから当日まで黙ってなきゃ!」
「そ、そうだよね。来月の誕生日は別にサプライズとか考えてないし」
「……そうなの?」
「今のところは。手料理とケーキ、プレゼントは贈るつもりだけど、やっぱり仕事が忙しいんじゃないかと思って遠慮しちゃうかな」

 フレイヤの発言にコアラはしばし逡巡する。

「ドラゴンさんに頼んでみたら?」
「え?」
「一日過ごす時間をもらえないかって交渉してみるの。サボ君ってば、私が先にフレイヤから祝われたからあの日の翌日ちょっと拗ねてたんだよね。だから盛大に祝ってあげて」
「そうだったんだ……」
「うん。だから夕方まではデートして、夜はみんなで集まってお祝いしたあと二人きりでもう一度祝ってあげたらいいと思う」
「そっか。いいかも! 私も一日一緒にいられたらいいなって密かに思ってたから。とりあえずドラゴンさんのところに行ってみるね、ありがとうコアラちゃん」

 そこで誕生日の話は終わりかと思いきや、コアラが何かを思いついたようにいたずらに笑った。

「ねえフレイヤ。二人きりでお祝いするとき、ちょっと大胆になってみない?」
「……どういうこと?」
「今度バレンタインに必要な材料の調達に外へ出るでしょ? そのついでにさ――」

 コアラがこっそりフレイヤに耳打ちする。

「え、えええー! サボってそういうの喜ぶかな……」
「エプロンに反応してたなら喜ぶにきまってるよ。すごく可愛いデザイン選んであげる」
「う、うん……ちょっと緊張するけど、コアラちゃんが言うならやってみようかな」
「よし! じゃあバレンタインも気合い入れていこうね」