ゆるやかに落ちていく

「翼のことが好きって言ったらどうする?」
「……血迷ったのかって返すね」
「ひどい相変わらず」

 ぎらぎらと照りつける太陽。大合唱する蝉と女子の応援。横長に引かれた白線、そして麦わら帽子。飛葉中サッカー部が今日も練習に励んでいる。傍らで監督の西園寺玲とともに、その様子をうかがっているのは一応当部マネージャーの。練習には参加しなくても、マネージャーなので動きやすい服装であるものの頭上の帽子は夏を満喫している感が否めない。
 基礎練が終わったところで、コートの外に出てきた翼たちにタオルとドリンクボトルを渡したは唐突に繰り出した質問で翼をドン引きさせたところである。おまけに近くにいた直樹がドリンクを口から噴き出した。汚い。若干シャツが迷惑を被ったと思われる。
 だが、は至って真剣だった。翼と出会って一年ほどが経ち、最初から仲の良い友人感覚で付き合ってきた分ほかの女子に比べて距離が近いことは自覚している。それが一生懸命な姿を傍で見ているうちに、いつしか友情が恋情に変化したという何ともありきたりな青春を謳歌していた。だから今の発言は試しに言ってみた感はあっても、決して嘘などではないのだ。それをこの男、「血迷った」とは失礼極まりない。

「……いや、って翼のこと好きだったんか」
「やめろよ直樹。こいつのくだらない発言は今に始まったことじゃないだろ」
「くだらない発言って……翼は私をなんだと思ってるの」
「喋り狂うオートマタ」
「…………」

 いや、わからないからね? なにそれ。表現が独特すぎる。これだから賢い人間ってのは語彙力が高くて困る。何となくの意味で解釈したとして、十八番のマシンガントークはそっちではないか。
 は呆れて言い返せないまま盛大にため息をつくと、興がそがれた気分でその場を後にした。前途多難とはこういう状況ではないだろうか。翼が恋愛に興味ないとは思わないが、現時点では専ら対象外だということが証明された瞬間だった。